7月29日(金) 12:30 四日目:池袋神社休憩所
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第十二章 塚。それは土を盛って築いた山。
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7月29日(金)
12:30
四日目
池袋神社休憩所
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「うわびっくりした。やちよちゃん、どうしてここに?」
「清水に頼んで私が佐々也ちゃんをここに呼んでもらったんだよ。入ってもいい?」
「抗生教の清水さんに? 呼び捨て!? どういう繋がり? やちよちゃん、ガイドさんなんじゃないの?」
「それは仮の姿」
軽くいなされてしまった。
もう少し追求しようと思ったけど、追求したからってだからなんだということもないことにすぐに気づいた。純粋な興味としてはあるんだけど、東京のことが分からなすぎてちょっと聞いても意味がわからんのだろうなという予感がある。
あとで追求するとして、それをいま、窓越しに教えてもらいたいかというとそれは違う。
「……まぁいいか。どうぞどうぞ、お茶をいれたから一緒に飲もうか」
一方で『仮の姿』と言うやちよちゃんの言葉自体に対する驚きは少ない。
ここ二ヶ月ぐらい、こういう不条理な感じに慣れてきた感はある。
「わーい、ありがとう。じゃあ失礼して……」
そう言いながら、やちよちゃんは入り口から上がって、ふすまを通って部屋に入ってきた。
ハルカちゃんといい幹侍郎ちゃんといい、最近のびっくりは出会い頭のかましが派手だったから、浮いたり瞬間移動したりもせず普通に歩いてくるとなんだか拍子抜けな気がしてしまう。
「実は私ね、抗生教の人間なの」
「は?」
ああ、仮の姿の話ね。
教団関係か。なるほどなるほど。
「清水さんって大人だし少しは偉い人でしょ? その人を呼び捨てでいいの?」
「え? あー、うん。私、地球の意識をわかることができるの。だから教団ではそういう役目で、教団の人にお願いすると大抵は聞いてもらえるんだ」
指示語が多くて正確な意味が分かりづらい。
地球の意識……。巫女さんみたいなことか?
だとしたら神社に姿を現わすのもなんとなく相応しいんだろうか。
「……地球に意識とかあるの?」
「あるよ、もちろん。無かったら意識なんてわからないんだし」
いやその純粋な疑問というよりつまりその発言が本当なのかを問題にしてるという意味なのだけど、とはいえいまここで不信感をあんまりはっきり表明するのは得策でない。
教団に影響力がある巫女さんだっていうのが本当なら、気分を害さないほうが良いんだろうし。本当ならば、だけど。
ああいや、やちよちゃんの気分を害すべきでないのは、教団に影響力があるからってだけではないか。
幹侍郎ちゃんのことを相談するあては、いまのところやちよちゃんだけだ。
むしろ、どっちかというとこっちが重要だ。
でもなー、地球の意識とか言われちゃうと、なんか色眼鏡で見ちゃうよなー。
しかたがないので、無難な返事でごまかすことにする。
「そっかー」
「やっぱり信じられない?」
やべ。バレたか。
「いやちがうんだよ、積極的に疑ってるわけじゃない。ただなんというか上手く飲み込めないというか、信じるとか信じないじゃなくて分かったっていう感じがしないって気分なんだよ」
体裁を取り繕おうと思って口に出したら思いのほか早口になってしまって、かえって嘘っぽくなってしまった。
でも、自分で言ってみたらこれが正しい今の気持ちだという気もする。
そんな事を言っているうちに慣れた様子でやちよちゃんが卓袱台の前に座って、私が手渡したお茶に口をつけていた。
「大丈夫、私は気を悪くしたりしないよ。それに今日は大事な話があるんだ。時間がないから急がなくっちゃ」
「大事な話? 時間がない?」
意外な所に出てきて、意外なことを言われて、終いには急かされる。




