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諸々が千々に降下してくる夏々の日々  作者: triskaidecagon
第十二章 塚。それは土を盛って築いた山。
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……7月29日(金) 12:00 四日目:池袋塚西側外輪外

諸々が千々に降下してくる夏々の日々

 第十二章 塚。それは土を盛って築いた山。


――――――――――― ――――――――――― ―――――――――――

 神社といえば入り口が階段になっていて登った先に建屋と賽銭箱があるような印象があるけど、階段はなくて平らな地面に直接建っている。扉のない開放部は土間になっていて、その奥に仕切りがあって、その先には部屋があるのだろう。

 しめ縄を(また)げばもちろん入れるけど、さすがに鳥居のしめ縄をまたごうなんていう気にはなれないから、事実上の立入禁止だ。

 せっかくの神社なんだからお参りしたい気もするんだけど、鈴もお賽銭箱も無い。

「あの……、ここは?」

「お宮です」

 そうでしょうね。そうだと思ってた。

 かと言って清水さんもお宮参りをするわけでもないようだ。

「あ、神社ということは、神様は誰ですか?」

「ここのお宮には特定の神様が居るわけではありません。本体は後ろの壁です」

「壁?」

 言われてみれば部屋の奥の壁、この場所に対して不釣り合いに角度がついているように見える壁は上から下まで広く真っ平らで垂直な黒褐色の平面だ。左右や後ろは塚の傾斜に沿ったような角度が付いていたり入口や窓があったりするのに比べると、だいぶ趣が違う。

 というか、場所とか材質を考えると、本部の壁かこれは?

「はい。本部建物の壁です。このお宮から真っ直ぐ進むと、本部の中心部分に突き当たることになります」

「お宮の中に通路があって、地下通路で繋がってるみたいなことですか?」

「そういうのはありません。あ……いや、私も入って実際にこの目で見たことはないんですが、無いと聞いています」

「壁は触ってもいいんですか?」

「大丈夫ですよ」

 別に壁を触るのが大好きとか、触るとなにか分かるとかではないんだけど、気になるところはじっくりと見たいし、触ってみたい。そういう性格なのだ、私は。

 でも触ってみても、どことなく素焼きの陶器のように思われる普通の感触だった。

 コンクリートほどざらついているわけではないし、切り出した石のような鋭さもない。

 大事なものらしいから叩くのはちょっと気が引けたけど、ノックぐらいならいいだろうと思って人差し指の関節で軽くノックをしてみたけど音が出るようでもない。つまりはだいぶ中身が詰まっている感じだ。

 まぁ壁だから、食器とかそういうものよりだいぶ分厚いのだろう。

 巨大なものである割に小さなブロックに分かれてるような様子も見当たらないので、その辺は考えてみると異様な感じではある。

 どうやって作ったんだろうか、という疑問が浮かぶ感じではある。

 つまりは近づいてみても何もわからない。

 特にこういうものに詳しいとかでもないから、なにかが分かるはずもないんだけど。

 とはいえ、これまで気になっていた物を触ることができたので、個人的には満足。

 戻ろうとして入口付近に居る清水さんの方に振り返るとき、柵越しにお宮の裏側の空間が見えた。

 なんとなくお宮が壁にくっついているんだと思ってたけどそんなことはなくて、お宮の形が四角で、後ろの壁が斜めだから、当たり前だけどお宮の後ろは(ひし)いだような形になっている。

 手前側の狭い方は人一人やっと通れるぐらいの細い隙間になっていて、反対側の広い方はお宮の建物と同じかそれ以上ぐらいの幅になっているので空間としてはほとんど三角。

 手前も向こうも建物を囲む柵が壁までまっすぐ続いているので、後ろ側の三角の隙間も玉砂利が敷き詰められている。まぁそうだろうな、という気はするけど、前から見てるだけじゃわからない所がどうなっているか知ることができてちょっと嬉しい。

 戻りがけ、奥の壁に集中していた意識がもう少し広く開放されて、木があることに気がついた。室内にしては広いけど神社の境内としては狭い気がするこの広場には、あまり大きくない木が植わっているのだ。

 片側に二本。そういえば反対にも二本あった。

 本当は最初から見えていたけど、お宮や奥の壁に気を取られていて、室内に木が植わっていることがそれほど普通ではないことに気づいてなかった。

 気づいてみれば木の周辺だけほんのりと明るいようだ。

 見上げると、それぞれの木の真上の天井には小さな穴が空いていて、その穴からスポットライトのように光が降りてきているようだ。

 上を見たまま、清水さんのところに戻り着いた。

「上のあれはスポットライトですか?」

「窓になってます。屋上では膝ぐらいの高さの棒になっている感じです」

「ああ、自然光なんですね。なるほど」

 これも、なにがわかったわけでもないけど、なんとなく納得した。

 なんというのか、神社っぽいというか。

「どうでした、壁は? なにか分かりましたか?」

「いや、なんにもわかりません。ただ、大きい壁の割に表面が均一で、どうやって作ったのかなみたいな事は思いました」

「それには伝説がありまして、抗生教開祖の八千代(やちよ)様が、隕石落下でできたクレーターの湖底から持ち出した焼成(しょうせい)セラミックを材料に、TOX対策の砦として神通力で建てたのだと言われています」

「……ははぁ」

 あー、やっぱりそういう感じ?

 と言ってしまうわけにもいかないので、感嘆したようなうめき声を出してみる。

「まぁ伝説なので、本当かどうかはわかりませんが。とにかく、非常に古いことと頑丈なことは確かです」

「なるほど。それぐらいの感じですか」

 よかった。

 他人の宗教の伝説に対してどれぐらい恐れ入るべきなのか測りづらくて困ってたんだ。

「何か重大な秘密があるわけでもないですが、佐々也さんに珍しいものをお見せできてよかった。私達の伝説や風習はいくらか風変わりですから、ストリームのバラエティ番組で紹介するには適しませんので」

 確かにストリーム番組でこれをやったら、私もだいぶ失礼なことを言ってしまっただろうし、ずいぶん面白いことになってしまうだろうという感じはする。

 清水さんが口に出すような雰囲気であまり信じていなくても、自分たちの言い伝えなんかを他人からからかわれるのは嬉しくはないだろうし。

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