……7月29日(金) 12:00 四日目:池袋塚西側外輪外
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第十二章 塚。それは土を盛って築いた山。
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「ああ、いえ、違います。お祭りの時に見物席になるんですよ。ここを使ったお祭りがあるんです」
「この通路でお祭りっていうと、パレードをする感じですか?」
「パレード? そうですね、私達はお神楽と呼んでますが、似たようなものかもしれません」
神楽……?
あまり詳しくないけど、巫女さんが鈴持って踊るような神社でやる行事だったはず。鳥居があったんだから、きっとそういうことなんだろう。
「ああ、神社の……。でも神楽って、普通は舞台みたいなところでやるものなんじゃないんですか?」
「さぁ? 他所のものを見たことがありませんから。ここではあれがお神楽です」
「あっすいません。そうでしたね」
ずっと見物席ということは、神楽舞台に入り切らないぐらいの人を集める盛大なお祭り…‥お祭りなのか? まぁお祭りでいいか。正確には違っても、だいたい似たようなものだろう。そういう盛大なお祭りをやるのだろう。
東京の特徴みたいな部分について負の側面を意識することが多かったから、お祭りみたいなどことなく明るい気がする話題に触れられたのは嬉しい。
でも、下手に口を開くと宗教に関してまたデリカシーの無いことを言ってしまいそうな気がするから、もう感想なんて言わずに黙っている他ない。
「あ、これ、二階のところの同じ模様の壁も開くんですか?」
「開きます」
気になるので斜めに歩いて近寄って、通路脇の開くという壁を触ってみるけど、まぁ壁である。軽く押したら少し動いたような気もする。
学校にも開くと大部屋になる壁があるんだけど、そこを区切ってる壁のような手応えだ。
それほど長いわけではない通路を最後まで進むと、広場に出た。
広場と言っても塚の幅ギリギリ、奥行きも同じぐらいだから、宿所の大部屋の三倍ぐらいになるんだろうか? 塚の形が裾の広い山型で宿所が三階ここは一階だと思えば、更にその一・五倍ぐらいかもしれない。
だから塚の中としては広い場所だけど、広いと言っても限度はある。そこそこだ。
天井は廊下より更に高い。でも、ここまでの通路よりわずかに明るい気がする。
振り返って通路との差を見ると、ここの天井は通路に比べて倍ぐらいの高さだ。
おそらく三階全部の吹き抜けなのだろう。
振り返っていると、ここにも大きな暗褐色の鳥居が建っていて、広場の入口を跨いでいるのがわかった。
広場の形は少し独特で、奥の壁が斜めになっている。
ここに来るまでいかにも特別な場所のような雰囲気だったのに、ここに来て広場の形は間に合せで用意したような、鋭角のある収まりの悪い形だと感じてしまう。
広場の奥にはあまり大きくない建物がある。
木造で屋根が立派だけど、人が住むとしては狭すぎる感じだ。なにより、屋内なのに屋根があるので、それが普通の住居ではない特別な建物であることが分かる。
斜めになった壁を背後にその建物の周囲三方を白木の柵が囲んでおり、柵の中は白い玉砂利で敷き詰められている。
そして柵の入り口と思しき場所には相応の大きさ、つまりあまり大きくないとはいえ私が手を伸ばしても触れない高さのある暗褐色の鳥居。(とはいえゴジぐらいの身長なら手を伸ばせば届きそうな高さではある)
鳥居にはしめ縄が張ってあって玉砂利の範囲には入れない。
柵の中の、あの人が住むなら一人で精一杯みたいな建物はつまり神社だろう。
ただ立ってるだけなら五〜六人は入れるだろうけど、建物の中で立ってるだけってのもおかしいだろうし、神様だって中で座って休憩したりするはずだと思えば、やっぱり一人分でいっぱいって感じだと思う。
神社といえば入り口が階段になっていて登った先に建屋と賽銭箱があるような印象があるけど、階段はなくて平らな地面に直接建っている。扉のない開放部は土間になっていて、その奥に仕切りがあって、その先には部屋があるのだろう。
しめ縄を跨げばもちろん入れるけど、さすがに鳥居のしめ縄をまたごうなんていう気にはなれないから、事実上の立入禁止だ。
せっかくの神社なんだからお参りしたい気もするんだけど、鈴もお賽銭箱も無い。




