7月29日(金) 12:00 四日目:池袋塚西側外輪外
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第十二章 塚。それは土を盛って築いた山。
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7月29日(金)
12:00
四日目
池袋塚西側外輪外
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特別なところ、という触れ込みでまず連れてこられたのは、切通しとは本部を挟んで反対側。そのあたりの地上階にある内外を貫く大通路を抜けて外輪の外側に出た。
まったくの当たり前みたいな感じだけど、塚の外側はまず一般的な地上だった。
これまでずっと内輪側のテラスを軸に移動していたからか『地上階』の感覚がズレてしまっていたらしくて、地上階という名前の三階なのに地面があって不思議みたいな二重にズレた驚きを味わてしまう。
その場所には、昨日本部の横を通って切通しの辺りまで歩いたのと同じような少し広めの空き地があって、その向こうは森。本部の方を見ると、反対側と同じように広めの野原がある。
もちろん振り返ると、土を被った塚がある。
そして、私達が来た東側と違うところが一つ。
振り向いた脇に、塚に足元が埋まる形で大きな黒褐色の鳥居があった。
鳥居の中には通路がある。
その鳥居は塚に対して直角でなくて、斜めになっているのがなんとなく奇妙だ。
鳥居とかそういうものってかっちりしているイメージなのに。
「この鳥居、本部の壁と同じ材料なんですよ」
特色的な色と質感から、見ただけでそうなんじゃないかと思った。
「なにでできてるんですか?」
「最初のTOXが落ちて、クレーターができたときの熱で焼成されたセラミックと言われています」
「本部の壁も? そんなにたくさん!?」
「そこは伝説なので。詳しくは調べてられていません」
清水さんが苦笑いしながら答えてくれた。
やっぱり宗教施設だし、伝説みたいなものもあるのか。
せっかくの伝説にケチを付けてしまった……。
疑いの目で見てるわけじゃないんです。ただちょっと、疑問が抑えられないことがあるだけであって……。
「こちらです。どうぞ」
誘われて足を向けて改めて気がついたけど、鳥居の足元の間の道は、塚の中に斜めに侵入していく形になっている。
「あれ? 他の道はたいてい塚に対して垂直なのに、ここは斜めなんですね」
「おっ鋭いですね。そうです。ここは道の方が先だった、という話です」
「道のほうが先? じゃあ古くからあるんですね」
「そうです。本部と同じ頃ですから」
「本部はいつ頃からあるんですか?」
「これはずっと昔からです。詳しくは、午後の番組で説明しますから」
ここ以外の塚の中の道は内輪から外輪に抜ける放射状の大通路以外は大抵は曲がったりもしているし、枝分かれや行き止まりなんかも多くてゲームのダンジョンっぽいところが多かったのだけど、鳥居からの道はずっと真っ直ぐ。こういうところからも、ここは特別な場所なのだろうと感じる。
脇道ははないけどこの道に面した扉が所々にあるし、天井も他のところより高くて開放感があるから、光源が遠いだけやや薄暗いものの、怪しげな場所であるとは感じられない。そもそも塚の中は、電力があまり豊かでないのかすべての場所がどことなく薄暗い。
そういえば、地中の真っ直ぐな通路といえば幹侍郎ちゃんの部屋に続く通路と似た感じだけど、あっちは狭くてこっちは広いから受ける印象はだいぶ違う。
通路に面した扉とその周りの壁は、塚の中の他の場所と比べて独特な感じだ。
「よく見るとこの壁、なんか他のところと違う感じがしますね?」
「目ざといですね。ここの壁は開くようになってるんです」
「開く? 全部ですか?」
「正確には全部ではないんですけど、まぁ、殆ど全部ですね」
「なにかに使うんですか? 大きな物を出し入れするとか?」
「ああ、いえ、違います。お祭りの時に見物席になるんですよ。ここを使ったお祭りがあるんです」
「この通路でお祭りっていうと、パレードをする感じですか?」




