……6月21日(火) 15:55
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第二章 遙か彼方のあの星の流転の果ての悠久の……
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「TOX? イルカ?」
天宮さんはまったく意味がわからないという顔をしている。これはどちらも地球上に住んでいるなら小さな子供でも知っているような事柄だ。
「TOXはTOXだし、イルカはイルカだよ。なんでそんなになにも知らないの、天宮さん? 宇宙人とでも話してるみたいな気分だよ。それとも異世界から転生してきた魔族なの?」
何気なく聞いたつもりではある。けど、天宮さんの動きが止まった。
たしかに決定的な質問ではある。
ゴジも固まって「魔族……。魔族ってどういうこと?」とか呟いている。
「いやほら、仮に異世界転生だとしても人間では無さそうだからさ」
「いちおうだとしても、それなりの理由があっての発言だったのか……」
なかなか律儀なツッコミである。
さっきからちょいちょい引っかかってたから、つい口から出ただけなんだけどね。
そんなことより今は天宮さんだ。
「……そう、そうね。確かにここは二十一世紀頃に見えてしまう世界だけど、私の知識とは色々と、大きな違いがあっておかしくないはずなのよね……」
ずっと見ているけど、なにかをブツブツ言っている。
それでも、なにかを思い切ったようだ。
「うん。今度は私が答える番だよね。最初に行っておくと、私はいわゆる宇宙人ではないわ」
そうでしょうとも。
私だってほんとに宇宙人かもしれないとはほとんど思ってなかった。
「魔族でもない」
それはほとんど冗談だから、宇宙人よりもっと可能性が低いと思ってた。
実は、たぶん他人に幻覚を見せる的な能力者なんだろうと思ってる。
「えーと、次に写真ね。あれは私の写真だし、私自身」
「えっ?」
まさかそんなわけないと言うか、本人だとしたら色々とおかしなことがある。
いやまぁでも、自分で指切って食べてたし、天宮さんとしてはなんでもありか……。昨日から仕込みでそういう幻覚を見せていたって可能性も無きにしもあらず。手が込み過ぎだが。
すげーな、能力者。
「写真を見ると、下半身が無いみたいだけどどうして? これ、昨日の夜なんだけど」
私がアホな感心をしている間にゴジが聞いてくれた。
「わかりやすく言うと、生えてくる途中だったのよ。私の体ってちょっと人間と違うものだって言ったじゃない?」
「言ってたね……」
「で、その……。あの場所で植物みたいに生えてきたの。昨日の夜はその途中だった。そこを写真に撮られちゃったのね」
人間とちょっと違う程度でそこら辺から生えてこられるものか?
あまりにも人外だろそれは!
能力者の幻覚かもってちょっと思ってたけど、もしそうだったら自分をここまで人外設定にするか? 説得力なくなるだろ。いやもしかして、身近にはあんまり居ないから私がよく知らないだけで、極まった能力者とかっていうのはそもそもこれぐらい人外でも普通だとか?
知ってるのがゴジとか窓ちゃんだから能力者差別とかピンとこないと思ってたけど、ここまで常識を覆されるとなかなか平静な気持ちでは居られない。当たり前みたいな顔で「生えてきた」って言われてもなぁ……。
すげーな能力者。
話したら普通の人みたいだけど、これぐらい異常だと冷静になるまでにはどうしてもワンクッション必要な感じにはなる。妄想かもしれないと思っててもここまでインパクトがあるんだもんな。社会からはみ出した能力者が東京に集まってしまうのはこういうのが理由なのかもしれない。隔離政策が良いこととは思わないけど、実際目の当たりにすると……なんというか根源的な畏れの気持ちは分からなくない。いや、まだ私の妄想で、天宮さんが能力者って決まったわけじゃないんだけど。
持って生まれたなにか、というだけで、天宮さん自身に悪いところがあるわけじゃないから、これだけで嫌いになってはいけないな。自戒自戒。とりあえずあまり角が立たないようにもう少し探りを入れようと思う。
えーとなんだっけ? 植物みたいに生えてきただっけ?
「……植物だったら、普通は歩いたり喋ったりしないと思う。人間に化けたりもしないと思うし……」




