……7月29日(金) 6:15 四日目:池袋抗生教宿所・【完璧な朝】
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第十二章 塚。それは土を盛って築いた山。
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「……はようございます。朝ごはんの時間に見かけないので探しに来たところ、屋上で眠っている佐々也ちゃんを発見しました……。あ、お腹がはだけています。これはいけませんね……。どうですかみーちゃん隊員」
「ハルル隊長! さーちゃんはいつでも無防備ですけど、寝ているとさらに危険さが増します。いけませんねこれは、また人気が上がってしまいますよ……」
私を起こさないように、小さな声で喋っているのだろう。
自分が眠ってたらしいことに私もいま気がついたけど、別に眠くて眠ってたわけではないからもう完全に目が醒めた。前腕で目元を覆ってるのが自分でも分かる。
ちょっと脅かしてやろうかなという気になったので、腕の下の隙間からこっそり声のする方を見ると、端末で動画を撮っているらしいぞっちゃんと、それに向かってコソコソ喋っているハルカちゃんが見えた。
私を脅かしてリアクション映像の撮影をしたいんだろう。
それにしては喋ってる内容がハルカちゃんらしくない感じだし、なにより映る側がぞっちゃんじゃないというのはなんだか珍しい感じがする。まぁそのへんはバランスか。ぞっちゃんが画面の真ん中にいる場面は多いから、ハルカちゃん中心の絵が欲しいのかもしれないし。
この場合、私がすべきなのは、ハルカちゃんが驚かせに来たところを逆に驚かし返すことなのかな?
「飲みかけのお茶を探しているんですが……無いですねぇ」
ハルカちゃんが少しわざとらしくあたりをキョロキョロする。
「お茶? 隊長、もしかして喉乾いたんですか?」
「飲みかけのお茶を見つけてきてレポーターが飲む、これが寝起きドッキリの定番なんですが……。あとは脱ぎ散らかした洗濯物の匂いを嗅いだり……」
「え……こわっ! なにそれ? なんでそんなことするの?」
「伝統芸能なので……。理由なんかの詳細はわからないんですが……。まぁ無いものは仕方ないから省略しましょう。洗濯物は……物干しにシャツが掛けてあるけど、枕元に行くと驚かす前に起こしてしまう予感がしますので……」
「さーちゃんのことを呼びに来たんだから、起こすのが目的なんだけど」
「それだとドッキリ失敗になっちゃうから……」
「それはそうね」
「じゃあ、こっそり近寄って……、佐々也ちゃんのTシャツのはだけているお腹のところを……、ああーっめくれてしま……!!!」
「わっ!」
ハルカちゃんがTシャツの裾を摘んだところをめがけて、がばっと抱きつく。
背もたれ付きの長椅子に寝っ転がっる体勢だったから、とろくさい私でもぱっと起き上がって掴みかかることができた。
体勢の都合で膝立ちのハルカちゃんの頭をお腹のあたりに捕まえた形になる。
「さーちゃん、もしかして寝てなかった?」
「眠ってたみたいだけど、本気で寝入ってたわけじゃないからすぐ起きたんだよ」
「えー、いつ頃から起きてたの?」
「『おはようございます』の『は』ぐらいのところ」
「それはいちば〜ん最初のところ……」
私とぞっちゃんが話す間、捕まえたハルカちゃんはなんだか妙に大人しくしている。
振り解こうとしたら一瞬で振り解けちゃうから、それをしないようにしてるのかもしれないけど。
「いま何時?」
「七時半だよ」
「もうそんな時間!? 思ってたより長居しちゃったんだな」
寝椅子から降りるために、掴んでいたハルカちゃんを離す。
ハルカちゃんはガバッと立ち上がって、深くお辞儀をしながら「ありがとうございます」とお礼を言ってきた。
「ど……どうしたの?」
「寝起きドッキリの伝統的な作法では、仕掛けがバレて仕返しをされたら丁寧にお礼を言うことになってるの」
「な……なぜ……」
「さぁ? 伝統だから理由まではちょっと知らないけど……。風習が固まると、理由が逸失して意味不明になってしまうことはままあるから」
「そういうもんかね」
そもそも寝起きドッキリってなに? 「寝てるところを起こして驚かせる」って意味なんだろうというのは分かるんだけど、それって伝統になるほどよくやるものなの? 太陽系時代の日本は意外と修羅の国だったとか? いや、平和じゃないとできないやつかこれは。
つまり、争いが即殺し合いになる時代ではなかったということなのかな?
いまと同じだ。普通だわな。
わからん……。
なにもかもわからんけど、朝ごはんに降りて行かなきゃいけないから、まずは椅子を畳んで仕舞っておこう。あとで椅子を片付けに上がってくるのは面倒だもんな。
7:40
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「さーちゃんは屋上で寝てました〜」
と、ぞっちゃんが大声で報告しながら朝食の部屋に入っていく。
「えっ、この短時間で?」
と、桜さんが驚いている。




