表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
諸々が千々に降下してくる夏々の日々  作者: triskaidecagon
第十二章 塚。それは土を盛って築いた山。
283/489

……7月28日(木) 21:00 三日目:抗生教池袋宿所・佐々也の部屋

諸々が千々に降下してくる夏々の日々

 第十二章 塚。それは土を盛って築いた山。


――――――――――― ――――――――――― ―――――――――――

 ……いや確かに、実績は別として考えてみれば、言われてみれば意図的に約束を守らないという可能性はいままで私の考えの外だった。それが能力で、ゴジはその能力がありながら行使してなかったということなら、私にはその能力が無かった事になるけどさ……。

 いかさま、世の中は私が思っているのとは違う姿をしている。

「必要……つまり、幹侍郎ちゃんのためになりそうなら、ってことね。わかった、ありがとう。それはたぶん秘密をただ言わないでいるより難しいけど、頑張ってみるよ」

「別に言わないでいいなら言わない方がいいんだよ。なんというのか……要は権限の問題で、管理者権限を持ってるからって絶対に見知らぬアプリを実行しなきゃいけないってわけじゃない。それに管理者権限があったとしても、アプリから権限を要求された時には慎重に判断しなきゃいけない。でも権限があれば、必要な時に権限を使うこともできる。そういう感じのこと」

 わかりやすい。

 私に行動のリクエストをする話じゃなくて、秘密に関して権限を付与する感じか。

 なるほどそういう話でしたか。

「わかりやすい。なるほどよく分かった」

「……」

 例えが巧すぎて完全に理解したので、なんか言うことが無くなってしまった。

 話題話題。

「あ、そういえば。防衛隊の研修っていうのはどうなってるの? 順調?」

「さぁ? なんかテキストを読まされて、小テストをして、みたいな感じだから果たして順調なのかどうなのか……。いちおう、近いうちに隊の仕事の見学とかをすることになる予定だって聞かされてるけど、いまは準備中なんだって」

「へぇ……」

 どうしよう、特に感想とかはない。

 なにを教わってるのかということにはいくらか興味があるんだけど、この感じだとゴジの方にあんまり興味が無くて、仮に聞き出したところでふわふわした答えしか返ってこないってなことになりそうだ。つまり聞いてみるだけ無駄だ。

「あー、そのテキスト、こんど見せてよ」

「良いけど……。別に面白いことが書いてあるとかじゃないよ?」

「そうなの? まぁでもなんか興味あるし。あ、あと、そういえば、行き帰りの窓ちゃんとの二人乗り、ちゃんと乗れてるの?」

「え? なんで二人乗りしてるって知ってるの? 言ったっけ?」

「窓ちゃんから聞いた」

「ああ、窓ちゃんが言ったのか……」

 不審そうな、不機嫌そうな、ゴジからの反問。

 知られたくなかったのかな?

 でも、なんで?

 送り迎えをしてもらってることを知られても、嫌なことなんてなさそうなもんだ。

「それで、乗れてる? 二人乗りの後ろって危ないみたいじゃん」

「……え? 乗せてもらってるよ。危なくもないよ。ゆっくり走ってるって」

「どこにつかま……、これはいいか。危なくないなら、送り迎えしてもらって良いね」

「帰りは一人でバスに乗ることもあるよ。窓ちゃんが防衛隊に残るとき」

「駄目だよ先に帰ったりしちゃ。そういう時は窓ちゃんのことを待って……られないのか。幹侍郎ちゃんが居るから早く帰りたいよね」

「……そうだよ」

 なんだかゴジの声がより一層不機嫌になってしまった。あんまり触れてほしくない話題だったのかもしれない……。なんでだろう? 

 二人乗りの後ろの席にあんまり上手く乗れてないから恥ずかしいとかだろうか?

 良く分からない理由でゴジの機嫌が悪くなってしまうのは私としてはよくあることだ。

 そういう時、他人に聞いてもゴジの方が同情される始末なので、もう仕方ない。

 私にはわからないなにかの理由があって、私以外の人たちにはそれが読み取れるらしいのだ。ゴジに限らずよくあることなので、他人の感情が変わる理由がよく理解できなくてもあまり気にせず、ただ触れないことにしている。

「……じゃあ、そろそろ切るね。幹侍郎ちゃんによろしく伝えといて」

「ああ、うん。幹侍郎には寝ないで待つように言っておくよ」

「よろしく。まだ旅行して一週間経ってないけど、幹侍郎ちゃんと久しぶりに話したいな」

「そうか……まだ一週間経ってないんだ……」

「そうだよ? それどころか、ハルカちゃんが来てから、まだ二ヶ月ちょいしか経ってないよ」※¹

「……ほんとだ」

 ゴジの声音がずいぶん穏やかになった。

 機嫌も治ったみたいだし、なにか言うかと思って少し待ってみたけど言わないので、やっぱりそろそろ切り上げどきだ。

「じゃあ……」

「ねぇ佐々也」

「え? なに?」

 やっぱりなにか言うことがあったらしい。

「幹侍郎のこと、喋ってもいいよって言ったのは、本当はもう一つ理由があるんだ」

「え? そうなの? どんな?」

「うん……。あのね……、上手く言えないんだけど、秘密を守ってしっかり隠し通していくのはあんまり良くないことだと思うんだ」

「良くない? でも、幹侍郎ちゃんのことがみんなに知れたら、たぶん騒ぎになってしまうよ? 一緒に居れなくなるかも知れない。それはゴジも嫌なんでしょ?」

「そうだね、それは困る。なにより幹侍郎が可哀想だ。でもね、幹侍郎が可哀想なことにならないならホントは秘密じゃないほうがいい。それは、その……僕達の気持ちの問題として」

※¹ ハルカとの遭遇が六月二十一日なので、実際には二ヶ月と七日。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ