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諸々が千々に降下してくる夏々の日々  作者: triskaidecagon
第十二章 塚。それは土を盛って築いた山。
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……7月28日(木) 21:00 三日目:抗生教池袋宿所・佐々也の部屋

諸々が千々に降下してくる夏々の日々

 第十二章 塚。それは土を盛って築いた山。


――――――――――― ――――――――――― ―――――――――――

「夜ふかししちゃ駄目ってのはいつも言ってることだから、淋しいのは仕方ないよ。これに懲りて次から夜ふかししなくなるよう幹侍郎には反省してもらいたい。そういう手紙も置いてきたし」

「ゴジがそう言うなら、それでいいんだけど……。私も幹侍郎ちゃんと話したかったな」

「幹侍郎も佐々也と話したいって言ってたよ。そうだな、また明日掛けてきてよ。幹侍郎にもそう言って約束させるからさ。天宮も一緒に。幹侍郎は天宮とも話したいって言ってたし」

 そうしようかな、と思ったけど、それはちょっと難しいんだった。

「あ……、いや、ちょっと難しいかも。その、いつもは夜はぞっちゃんが居るんだよ。ぞっちゃんがいると幹侍郎ちゃんの話ってできないし」

「枝松が? ああ、一人で居られないのか……。でもそれは、なんか用ができたとか言って席を外したりできるんじゃないの?」

「旅先には用事なんてないんだよ……。四六時中一緒に居るから、変な言い訳してもバレちゃうし」

「別に枝松はそういうの詮索してくるような人間じゃないだろ?」

「それはそうなんだけど、あたしは不器用すぎて嘘をつくのが苦手でね……。ぞっちゃんも詮索はしてこないけど、そういう面の勘が鋭い子だからなにかを隠してることには気づかれてしまうだろうし」

「まぁ、そりゃそうだろうな……」

「だから約束はしにくいけど、近いうちにまた連絡するから、幹侍郎ちゃんにもそう伝えといてよ。夜ふかししないいい子のところには佐々也から電話が来るよとかそういう感じで」

「そういうご褒美で釣って躾をするようなやり方は感心しないけど、夜ふかししてると夜起きてられないってのはその通りだな。だからなんとかうまく言って聞かせてみるよ」

「そこはお任せするよ。私としてはいつ電話するよって事前に約束できないだけだから」

「枝松のことを警戒するのはまぁありがたいけど、そんなんで幹侍郎の居場所を探したりできるの? 別に、枝松から広まらないなら、枝松にバレること自体はそんなに困らないよ? というか枝松に限らずだね。考えたんだけど、東京でなにかを探すとなったら誰か詳しい人に相談したりしなくちゃいけないんじゃない? そういう時に、いくらか説明する分には仕方ないと思ってるし……」

 やちよちゃんとかね……。

「……簡単に言うけど、言うとなってもなかなか言い出せるもんじゃないからね?」

「別に誰にでも教えて欲しいってことじゃないよ。でも、この先には幹侍郎のことを説明する必要がある場合もあると思う。その時は、佐々也の判断である程度なら話しちゃってもいいって話なだけ」

「……嘘だけじゃなくて、隠し事も苦手なんだよあたしは。程々に隠しておくなんて難しいことそうそう簡単にできないよ……」

 ゴジがかなり真剣な口調でいうので、少し飲み込んで考えてみる。

 でも無理だ。いずれにせよ、私にそんな器用なことができる気はしない。

「うーん。なにもかも誰にも言うなって話じゃないよってだけで、誰にも話さないで済むならそれに越したことはないんだ。その……、言い方を変えよう。つまり、佐々也は約束を必要以上に守ってしまう場合があるから、困ったらその時の判断に役立てて欲しいってことなんだよ。幹侍郎が広い場所で過ごせるなら、その方がいいんだから」

 約束を必要以上に守ってしまう……?

 約束したらそりゃ守るだろ。

 そうでなきゃ約束をする意味がそもそも無いと思うんだけど、もしかしたら世の中には約束を必要なだけ守るっていうパターンが有るのか? というか、ゴジにとっては約束は必要に応じて守ったり守らなかったりするもので、私にはそれができないと思われてるってことか?

 だいたいのところ、私よりゴジの方が約束をよく守る。

 私はドジを踏んで約束を守れないことがあったりするけど、ゴジはそういう事も無い。

 ……いや確かに、実績は別として考えてみれば、言われてみれば意図的に約束を守らないという可能性はいままで私の考えの外だった。それが能力で、ゴジはその能力がありながら行使してなかったということなら、私にはその能力が無かった事になるけどさ……。

 いかさま、世の中は私が思っているのとは違う姿をしている。

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