……6月21日(火) 15:55
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第二章 遙か彼方のあの星の流転の果ての悠久の……
――――――――――― ――――――――――― ―――――――――――
「ここで話すならいい?」
そう問いかけて天宮さんの方を見ると、あらぬ方を見ていた。私の問いかけが耳に届いたのか、こちらに向き直る。
「あ、うん。いいよ」
「なにか気になるものあった?」
「なんでもない」
同じ方に視線を向けると、ありふれた小さな蝶がひらひら飛んでいた。
「ちょうちょ?」
「え? うん、そうかも」
天宮さんはよく分からないごまかし方をした。引っかかるものは感じるけど、あんまり追求してもなぁ。ちょっと目を奪われたものがちょうちょかどうかわかっても、なにが分かるという事でもない。
ここのところ天気も良いので椅子も特に濡れていたりすることはなく席についてもらう。私とゴジが並んで座って、私の正面に天宮さん。よし、とひと息ついたところで、天宮さんからの質問が来た。
「それで、私の方からも確認したいことがあるんだけど……」
「答えられるかどうかわからないけど、どんなこと?」
「この星って、地球なんだよね? いまは西暦何年? 文化様式を確認しても、せいぜい二〇〇〇〜二三〇〇年ごろとしか思えないんだけど……」
……。
なにを聞かれているのか一瞬わからなかった。そりゃ地球だろ。天宮さんはなにか? 異世界から転生してきた魔族とかそういう身の上なのか? ファンタジー設定?
「……質問の意図がわからないけど、文字通り答えるね。ここは地球。元の太陽系からある時にここに移動させられて、いまはダイソン球の中。西暦……はちょっとわからないんだけど、地球がこの場所に連れてこられた時を零年として数える球暦だと五〇〇八年。西暦にすると……、学校では習ったはずなんだけど忘れちゃったな……」
「地球が元の場所からいなくなったのは二十五世紀のはずだから、西暦だと七五〇〇年ぐらい? のはずかなぁ」
私の言葉をゴジが補足してくれる。
「年? 年を数えてるの? 地球があるのが元の場所じゃないのに、公転周期由来の時間区分なの? 元と同じ長さ?」
天宮さんの疑問がなにを意味しているのか、またしても一瞬理解できない。
ゴジも同じだったらしい。
とはいえどことなく科学的で、ファンタジー出身とはまたちょっと違う質問のようには思う。
「年は年だよ。他の長さの年なんてあるか?」
「あ、いや、ゴジ。公転周期ってことは、時間そのものの話じゃないと思うんだ。あー、確かに年を使ってるし、最初の頃に原子周波数を使って調べて、ここに来る前の元の一年とほぼ同じ長さっていうのを確認していたはず。歴史の授業で習った。誤差まではちょっと知らないけど、たしかうるう年で公転周期の端数を調整してるんだったよね。うるう年は四年に一回」
「んー、潮汐力は? まぁ、五千年ぐらいだとまだ公転周期に関わるほどの時間ではないけど……」
「潮汐力? 海の満ち引きだっけ? あるよ」
ゴジが答えてくれた。飲み込みが善い、というか、私に合わせてくれてるのかも。
私は気がついたことがあるので、それを補足する。
「えーと、今の地球には月はないけど、潮汐を起こす謎の重力源だけはあるそうだよ。潮汐力は他の惑星も関係するんだっけ? そっちの影響はよくわからないけど、あんまり近くを通らないから影響は小さいはずだと思う」
西暦を知っているということは、元の地球に関する知識があるのだと思う。
なんというか、ファンタジー設定の異世界転生というより、SF設定で宇宙人と話しているような気がしてきた。まぁ、かつて転生した地球人が知識を伝え残した異世界出身の魔族の可能性は消えてないけど。
「重力源があると……。なるほど、それはそうかも。あとは、いま言ってた他の惑星のことを教えてくれる?」
「他の惑星のことはよく知らない。いちおうここには三個の惑星があって、それぞれに知性が住み着いているらしいという話なんだけど、相互の交流は取れないようにされてしまっているので……」
「交流が取れない? なぜ?」
「報復されるらしい。TOXと、それからイルカたちからも」
「TOX? イルカ?」
天宮さんはまったく意味がわからないという顔をしている。これはどちらも地球上に住んでいるなら小さな子供でも知っているような事柄だ。