7月28日(木) 17:30 三日目:抗生教池袋宿所・お部屋紹介配信:枝松みぞれ
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第十二章 塚。それは土を盛って築いた山。
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7月28日(木)
17:30
三日目
抗生教池袋宿所
お部屋紹介配信
枝松みぞれ
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夕方と呼んでいい頃合いの時間になって、じゃあそろそろと清水さんが帰って行った。
同じ頃、宿所の一番奥の大きな部屋でよれひーさんから探検隊の明日の撮影の予定を聞いて、今日の探検隊活動は解散する流れになった。
まだ夕方で、暗くなる時間じゃないから、なにかしたい。
このままだと割り当てられた部屋で休む流れになるけど、まだ寝るまでに時間があるから一人になるのは寂しい。佐々也ちゃんもハルカちゃんも優しいからお願いすれば一緒に居てくれるだろうけど、そういうのじゃなくてみんなでなにかやりたい。
うーん……。
「よれひーさん、私、自分の番組を撮影してもいいですか? えーと、ここのお部屋紹介」
ただ撮影するだけならやればいいんだろうけど、よれひーさんはちょっとした小ネタでも許可を取るって言ってたし、私もそうしたほうがいいに決まってるから念のため確認。
「え? それはいいけど……。ここって言うと、宿所ですか?」
私の質問に、よれひーさんがすぐ答えてくれた。
三日も一緒に居てわかってきたけど、よれひーさんは本当にいい人だ。こっちの意図を尊重してくれるし、損得みたいなこともあんまり言わないでくれる。
「あー、でも、そうだな。せっかくならその内容でよれひーチャンネルの生配信をやってもらってもいい?」
「え? それは全然いいですけど……」
実際に配信になったら佐々也ちゃんもハルカちゃんも絶対つきあってくれるし。
でも、せっかく思いついた自分の番組が無くなっちゃうな。
よれひーさんの企画で来てるから、自分の番組を優先したいなんて言ったら私のほうがずるいんだけど、なにかできないかな……。
「あ! ……それじゃあ、生配信しているところを自分のカメラで撮影して、私のチャンネルで流すメイキングみたいな番組にしてもいいですか?」
「メイキングか……。うん、いいよ。でも、番組ができたら事前に確認させてね?」
「それはもちろん!」
よれひーさんからの許可が出たので、さっそく撮影を始めようと自分の端末を取り出した。
「あ、配信してもらうなら、うちのカメラが要るね。ちょっと録画データの有無だけ確認するから少し待ってて……もう撮ってるの?」
「はい。なにに使えるかはわかりませんけど」
「ははは。じゃあ早めにカメラのデータ確認してくるね。あと、メイキングのカメラ用にスタッフが必要かな。……それはこっちから出させてもらうよ。桜さん、お願いできる?」
「はい。でも私、カメラはあんまり得意じゃないですけど」
「趣旨を聞くと、プロっぽい画作りが必要ってわけじゃなさそうだから、中で一番レザミ・オリセのみんなに年齢の近い桜さんにお願いする感じです。友達と遊びながら撮る感じでいいんだと思うよ。どうかな?」
「はい。それでお願いします」
どうかな、は私に向けてだった。
桜さんも私の方を見ているので、なにも考えずにこう答えた。
桜さんはスタッフさんの一人で主業務は音響関係のアシスタントとからしい。
とは言っても小道具や荷物運び、カメラとか映像確認などなどなんでもやってる。
桜さんだけじゃなくてスタッフさんはみんなそうだ。そんな中で、特に難しいところは役割になっている人が担当したり助言したりする感じになってるらしい。だから当然、桜さんもカメラを扱える。
私が撮ろうと思ってたのは、自分の携端で光量の調整なんかも考えずに日常風景の一部として撮影するやつだ。カメラを扱えるもなにも、特に撮影についての指定なんかは無い。それどころか、撮影中に佐々也ちゃんやハルカちゃんにカメラ係を代わってもらったりしようと思ってた。
そもそも私はカメラをどう使うと映像がどう変わるのか理解しているとは言えない。
カメラマンというプロが居て、撮りっぱなしの映像にも良いのと悪いのがあるらしいということしか知らない。違いがあることは知っていても、私には違いがわからない。
でもよれひーさんがそう言うのならちゃんと意味があるんだろうし、絶対に良くなるようにしてくれてるのは間違いない。




