……7月28日(木) 16:00〜16:15 三日目:抗生教本部前〜池袋塚入り口
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第十一章 徒歩で行く新世界。そこは池袋。
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断面には、コンクリや木材を材料にしているであろう人工的な壁が見える。人工的と言っても、私が普段見慣れているような工業的な潔癖さはなく、ひどく汚れてはいないが整然ともしていない。そしてその壁には窓があり、入口がある。
「え? この山、入れるんですか?」
「入れますよ。というか、山ではないんです。塚と呼ばれている建築物なんです」
切れ込みに辿り着いたところで目に入ってきたのは、見下ろした位置にある広場と、それを取り囲むように円形に立ち並ぶ建物だった。
* * *
見慣れない光景が目の前一面に広がり、自分がなにを見ているのかすぐには把握できない。
何に似てるかといえば、西アジアの古代遺跡とかなんじゃないだろうか。人の手が入っていることは間違いない整然とした空間。中央に広場。
ただ中央の広場の中心部は、いま自分たちが居る場所よりもだいぶ低い場所にある。途中に一階層を挟み、いま居る地面より二階層下。目に入る色々なところに坂道や階段があって、二階層下の中央広場に行くのは容易そうである。
地面に大きな二段階の穴が空いたような形になっている周囲の地上部分に、概ね円形に三階建てぐらいの古代遺跡がぐるっと取り巻いているような形だ。場所によっては、地下一階の部分まで『古代遺跡』が続いている場所もある。
なんとなく、空間を把握できるようになってきた。
全体としてはすり鉢型のコロシアムのような形なのだ。ただ、地面より下は座席がおいてあるなだらかな斜面になってはおらず階層に分かれた穴ぼこで、二階席三階席の部分が『塚』という建物になっている。塚の内側は、外側のように土に覆われてはおらず、人工的な建物。そして私達がいま居る場所は、この比喩ならば一階座席の最後方というわけだ。
あ、いや、いま自分たちがいる右手三十度ぐらいのところにはぴったり本部建物が面していて、その部分はのっぺりと平らで、他の場所の雑然とした感じとは一線を画している。バックスクリーンの巨大モニタみたいな感じだろう。
「わぁ、すご〜い!」
「おぉ……」
同じ意味の歓声なんだけど、ぞっちゃんとは随分差がついた気がする。まぁいいだろう。
人の姿もあちこちにまばらに見える。
人影の様子を見ると、周囲の建物は二階三階の外側にも人が通れる通路があるようだ。
「池袋に住んでいる人は、みんなこの塚に居ます」
『塚』の人工物部分を遠目に見ても、各々の住居の生前とした感じは赤羽で見たバラックのような感じとはかなり違う様子だ。とはいえ、天井があまり高そうでないところや、木の板で外の通路が補修されている様子など、私達が見かける工業的で整然とした集合住宅とはまた違う。
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7月28日(木)
16:15
三日目
池袋塚入り口
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「ここ、下の階に降りてもいいですか?」
清水さんに聞いたら首を横に振られてしまった。
「いまは止めてください。これから皆さんが宿泊するお部屋に案内します。ここの真上ですよ」
そう言って清水さんは、私達を先導してさっき切れ口が見え始めた時に目に入った塚の側面の入り口に向かう。私達は清水さんから色々な説明を受けながら、中を通ったり外に出たりのやや複雑な経路を通って、塚の最上階にあるその部屋に案内してもらう。
最上階、さっき清水さんが言っていたように切れ込みに面した場所。そこに繋がっている廊下を区切る扉もあり、一連の貸フロアという感じの場所だった。
景色のいい一角で、仮スタジオとして広くて豪華な感じの続き部屋と、宿泊用に数部屋。さすがにホテルのような日々のルームサービスは無いらしいけど、それにしたって宿泊所としてはだいぶ贅沢である。
「うわー、高そうな部屋」
あ、いや、無料なのか?
「気に入ってもらえたようなら良かったです。でも、ホテルではないので決まった宿泊料があるというわけでもないので、反応に困ってしまいますが」
「あれ? それじゃあもしかして、ここは本来なら誰かが住んでるってことですか?」
「いえ違いますよ。ゲストルームです。お客様が来ること自体は、そう多くないとはいえありますから」
窓の外の景色を見たり、部屋割りを決めたりで時間が過ぎた。
録画もなんとなく終わった。一応、ぞっちゃんが内側と外側の両方の窓の景色を紹介して、こっちとこっちで窓からの高さが違うんだよ、ということを紹介して〆。
私は、この遺跡型の集合住宅だと幹侍郎ちゃんは入れないな、なんてことを考えていた。
第十一章 了
次回更新は5月1日の予定です。




