表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
諸々が千々に降下してくる夏々の日々  作者: triskaidecagon
第十一章 徒歩で行く新世界。そこは池袋。
271/489

7月28日(木) 15:15 三日目:池袋北門

諸々が千々に降下してくる夏々の日々

 第十一章 徒歩で行く新世界。そこは池袋。

━━━━━━━━━━

7月28日(木)

     15:15

       三日目

      池袋北門

━━━━━━━━━━


 池袋北門。

 暗褐色(あんかっしょく)の巨大な(かたまり)の少し手前にはそんな看板が出ている門があり、そこでは通行人の確認をしている。

 門の左右にはいちおう壁やフェンスがあって、なんとなく通り抜けられるようにはなっていない。とはいえ、背の高い壁が外周ぐるりを巡っているなんてこともなさそうなので、道を通ってきた人にはそういう関所になっているというだけの様子だ。

 おそらく制服だろうという揃いのものを着た守衛さんというか見張り番というか軍人というかそういう感じの人が居て、近づいたところで声を掛けてきた。「よれひーさんの撮影隊ですか?」だって。「ここに居るので全部ですか?」「車で移動してきた別働隊が居て、それ以外はここに居るので全部です。あ、いえ、本当はガイドさんが一緒だったはずなんですが、途中ではぐれてしまって」「はぐれた? 赤羽からここまでの間で? 一本道でしょう?」「あ、いえ、ガイドさんが別に用があると言って、つい十五分ぐらい前に森に入っていってしまったんです」「十五分前? そんな所、なにもないでしょう?」「なにがあるのかは、僕は知りませんが……」「そうか……。まぁ、ガイドならここの人間だろうからな」という、なんだか不安なやり取りをしていた。

 とにかく確認事項があるので、ということでよれひーさんが別室に連れて行かれた。私達と他のスタッフさんたちは門の外にある小屋のような待合室で待機。よれひーさんはカメラを持っていこうとしたけど、守衛さんに拒否されてしまった。

「じゃあ、みーちゃんさん、せっかくだから待合室で待ってる間、その様子を撮影してもらってもいいかな?」

「はーい」

 といってぞっちゃんは気軽にカメラを受け取る。

「ぞっちゃんでいいんですか?」

 私は疑問に思っていたことを口にした。

「佐々也ちゃんさんもやりたかった?」

「いえ、別に。そうではなくて、カメラなら川口さんがやるのかなって思ったから……」

「ああそういうこと。えーと、細かい説明は省くけど、ミニ企画って感じかな。みーちゃんは番組を作る方の感覚もあるみたいだから、カメラを使ってやってもらうと面白いものができるかもってだけだから」

「なるほど……」

 本当は、それだと川口さんでなくてぞっちゃんがやる理由にはならないんではと思ったけど、私には見えない階段があってぞっちゃんがやる方が良いという結論になるんだろうと思う。追求してもそんなに得はないし、どうやらよれひーさんには理由があるということがわかった時点でここは満足と言える。

「じゃあ、僕は行ってきます。いつもならそう長くはかからないんだけど」

「……この時はまだ、あんなことになるとは知らなかった……」

 行こうとするよれひーさんにカメラを向けて、ぞっちゃんが不吉なナレーションを付けたりしている。


「どうするぞっちゃん? なんか手伝うことある?」

「ううん、平気。勝手に撮るから、普通にしてて」

「普通って言われてもな……」

 私にしてみたら突然、なんにもない部屋に足止めって感じである。何をするもない。

 水でも飲むかな。

 待ち時間にして三十分ぐらい。意外と長く待たされることになった。

 ぞっちゃんはその間、スタッフさんたちにカメラを向けて一緒におしゃべりすることにしたようだ。いまこの場にいるのは川口さんと浦和さん。色んな人と喋りたいんだと思う。私はよく知らない人と喋るのはかなり疲れちゃうから、一対一ならともかく、程々に親しいぐらいの人と雑談みたいなことをするのはすごく苦手だ。こういう、誰とでも喋ろうとするところは偉いと思ってる。

 ハルカちゃんもそっちに参加してる。私も行けば仲間に入れるとは思うけど、まぁいいや。私には東京に来た真の目的がある。考えなきゃいけないことがあるのだ。

 ここまでの間に幹侍郎ちゃんが暮らせそうな場所は無かった。

 森の中にただ居るだけならなんとでもなるだろうけど、それは暮らしじゃない。

 やちよちゃんが相談してこいみたいなこと言ってたけど、やっぱり現地の人に話を聞くのがいいんだろうなという気はする。一週間ぐらいは居るのだろうから、知り合いもできるだろう。

 あとはどうにかしてやちよちゃんを探すことができて仲間はずれみたいにしたことを謝ったら、その相談相手にはなってくれるんだと思う。そう言ってたし、すごく怒ってるみたいでもなかったから謝ったら許してくれるだろう。もしかしたら意地悪されたとも思ってないかもしれないし。

 でもやちよちゃんは私より年下なぐらいだから、相談したらその後は知り合いの伝手を辿ってみたいなことになると思う。だとすると、やちよちゃんに会ってもそこから先の話がまだあるのだろうからそこが難点ではある。もっと手っ取り早い相手が居るはずだ。

 それになにより、やちよちゃんに相談するもなにも、やちよちゃんがどこに居るかわからない。探そうにも東京での人の探し方だってわからない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ