7月28日(木) 15:00 三日目:池袋北東交差点
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第十一章 徒歩で行く新世界。そこは池袋。
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7月28日(木)
15:00
三日目
池袋北東交差点
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実際に歩いてみると、見た目ほどには遠くなかった。
というか、直線距離徒歩十分なので、一キロメートルもないはずだ。時間で言ったら、自分の家から支校舎までより近い。
異様な光景のせいで遠近感がおかしくなっているらしくて、近づけば近づくほどどうやら建物が大きすぎるわけでないことが分かってきた。とは言っても、見慣れた麓の町のショッピングモールよりは背が高い。幅の方は麓の町のショッピングモールよりは狭いと思う。高さと同じぐらいじゃないかと思う。
建物を横から見た時に正方形になっているというのはけっこう珍しいと思う。背の高い建物はたいてい幅が狭いし、幅の広い建物はたいてい高さが低い。
こう、見慣れた形の建物というのはある程度はみな形が決まってるというか、十階建て、十五階建ての建物というのは基本的に細長いというイメージがかなり強い。集合住宅なんかだと高くて幅の広いものもあると思うけど、その場合にはかなり薄くて窓が多い建物になっているように思う。目の前の建物はそのどっちの特徴もない。窓らしき部分は小さいし少ないし、この角度だと厚みは分からないけど、なんだか分厚そうに感じる。なんとなく基本的なセンスとして、こういう一本道の先に視界を塞ぐ屏風のように薄い建物を作るかと言えばそうではないんじゃないかという気がするから、厚みがあるように感じているだけで本当は違うのかもしれない。奥行きがどれくらいあるかについては、もしかしたら案外細長いんじゃないかという気はしている。貨物船に乗っているコンテナのような形と思うと、なんとなく想像しやすい。
とにかく見えないから印象だけの話なんだけど。
「さーちゃん! なんか言って!」
気がつくと、隣りにいるぞっちゃんにゆすられていた。
「え? ああ、ごめん。建物のインパクトにやられてた」
「おおきいよね〜。ヌルポートぐらいあるかなぁ?」
「下の町のヌルポより背は高いよね。でも、奥行きとか広さがどれぐらいあるか、ここからだと見えないな―、と思って」
「あー、なるほど。どうなんですか、よれひーさん。あの建物ってどれぐらいの大きさなんですか?」
ぞっちゃんがカメラを覗き込むようにして話しかける。
アオリで建物を撮影しているところだったので、カメラの位置は顔よりだいぶ下の方となっており、横から見てるとちょっと変な感じだ。
撮影前にカメラがよれひーさんだと思って話すようにという説明はあったから、ぞっちゃんはそれに適応してるんだな。確かにずっとカメラと一緒に居たから慣れる機会も多かったんだろうけど、こういうところは偉いと思う。
「行けば分かるから、ここではそれは秘密です」
天の声らしい作った喋り方でよれひーさんの回答。
確かに番組の名目は探検だし、実際にこの目で確かめてみるのが大切だな、と思って私は納得した。ぞっちゃんは「え〜、けち〜」とかぶーたれたことを言って、カメラにしかめっ面をして見せている。
そ……そんなこと言っていいのか……!!
ケチで言ってるわけじゃないと思うし、なにより失礼なのでは?
「け……ケチじゃね―し! 演出だし!」
と、天の声っぽくない声でよれひーさんが受け答えをしているけど、顔は笑っているから失礼に怒っているというわけでもなさそうだ。
「ほんとですか〜?」
と、ぞっちゃんはカメラ相手にまだ絡んでいる。
「本当です。天の声は嘘をつきません」
よれひーさんの声がまた天の声っぽいものに戻っている。
「う〜ん……。天の声がそう言うなら、信じてもいいかなぁ」
そういって、ぞっちゃんが歩を少し緩めてすっとカメラから離れた。
それで私達の方に近づいて話しかけてくる。
もちろん、よれひー〜さんのカメラはぞっちゃんを追って一緒にこっちを向いている。




