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諸々が千々に降下してくる夏々の日々  作者: triskaidecagon
第十一章 徒歩で行く新世界。そこは池袋。
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7月28日(木) 14:45〜14:50  三日目 :赤羽池袋間路上〜池袋北東交差点

諸々が千々に降下してくる夏々の日々

 第十一章 徒歩で行く新世界。そこは池袋。

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7月28日(木)

     14:45

       三日目

   赤羽池袋間路上

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 とはいえ、やちよちゃんを追うかどうかの相談はそんなに長い話になるわけでもなく、五分もしたらもう追いかけきれないのが目に見えている。そこで相談は早めに切り上げて進行再開することになった。池袋も近いことだし、やちよちゃんが秘密だというどこかに立ち寄った後、きっと池袋には行くのだろうということで、やちよちゃんのことは後からでも探してみることにしたいみたいだ。

「じゃあ、気を取り直して出発しましょうか。カメラを構えてからキューをしますので、みーちゃんさんが適当に繋いでください」

「はーい」

 ぞっちゃんは急なパスにも怖じけずに受けて立つ。

 適当に? 私には無理だ。やっぱりぞっちゃんは頼りになる。

「じゃあ、いきまーす。さん、にい、いち、キュー」

「やちよちゃんとは急なお別れになっちゃったけど、あと少しらしいですから頑張って池袋をめざそー!」

「おー!」

「……」

 ぞっちゃんの合図にハルカちゃんが合わせて掛け声をあげて、右手を拳にして上げる。

 私は出遅れてしまった。

 こういうときは、目立たないようにしてやり過ごしたい。遅ればせながらグーにした手をハルカちゃんに合わせて突き上げる。

 ……。

 ぞっちゃんと目が合った。

 いや、目なんて合ってません。ぞっちゃんにおかれては、私に構わず話を勧めてもらいたい。急いで目の焦点をぼやかせてからほんのり視線を逸して、目が合ったりしてないふりをする。顔や視線をそむけるとバレる。

「佐々也ちゃんも一緒にー。はい、池袋まであと一息! がんばるぞー!」

「「おー!」」

「おおっ!!」

 名指しで誘導されたらもう断れないので力を入れて掛け声をしたら、ハルカちゃんとぞっちゃん(今回はぞっちゃんも言ってた)からやっぱり浮いた感じになってしまった。もういいよ、私が浮いた感じになるのは仕方ないんだと思う。




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7月28日(木)

     14:50

       三日目

   池袋北東交差点

━━━━━━━━━━


 目的地目前で現地ガイドのやちよちゃんが隊を離れた場所から少し行くと、冗談のように右手の森が途切れて、草原(くさはら)というか野原というかそういう場所があらわれた。思えば広大な野原というのはあんまり見かけない風景だ。例えて言うなら……なんだろう? 戦車の映像というのを稀に見ることがあるけど、そういう時、市街地ではなくどこかの山林でもない、丈の高い草がところどころ生えている空き地のような場所を走っていることがある。眼の前に広がっているのは、ああいう場所だ。広い草原(くさはら)というと牧場だったら私も見たことがあるけど、牧場の草は人の手が入っていてもっとぜんぜん背が低い。

 拓けた野原の反対、左手側はあまり変わらずにやはり森。

 要は森の中の道が森と野原の境目に張り付いているような道に変わった。

 その道を更に五分ほど歩くと、左手の森に唐突に切込みが入って道が通っていた。前方にはまだ道が続いているので分かれ道だということになる。

 分かれ道。言い方を変えると交差点。

 ここまで三時間、赤羽を出てから初めての交差点だ。

 まぁでも、さっきぞっちゃんが頑張って仕切り直したのにもう着いちゃったというか、力を込めた仕切り直しも微妙に拍子抜けみたいなところがあったりもする。

 

 この分かれ道、ここまでずっと森の中だったことを考えると視界が開けていると言うだけでも気持ちがよく、もしファンタジー小説なら茶屋とか宿屋の一つもありそうな場所だ。そして、切れ込んだ森の中に続く道の向こうには、ファンタジー小説ならお城が見えるはずの……。お城が見えるはずの所にお城じゃなくて……。

 なんだあれ(・・)は……?

 ……のっぺりしたなにか大きな塊が見える。

 色は黒、というかかなり暗めの暗褐色(あんかっしょく)だろうか?

 逆光気味の暗い面しか見えていないから、色を暗めに間違っている可能性はあるけど。

 ツヤのない、焼き締めた土塊(つちくれ)のような質感であるように見える。おおまかに土を焼き締めると素焼きのツボとかになったりするんだろうけど、色味としては素焼きの陶器なんかよりももっともっと暗い、湿った泥団子みたいな色だ。

 その暗色(あんしょく)(かたまり)、下の方は森に隠れて見えないけど、上の方には小さな穴というか窓のようなものが並んでいるのが見える。遠目には建物かどうかの確信も持てないけど、あれが窓だとするとやっぱり建物ではあるんだろう。

 ビルと言うには背が低い、というか、森の木よりも高いから背が低い建物じゃないんだろうと思うんだけど、そうだとすると幅が――それからおそらく厚みも――かなりある様子。左右は森の中に見切れてるし、厚みはここからじゃもとより確認できない。左右の端っこがいま見えているところでまっすぐだとすると縦横比的には時々見かける真四角の個人宅みたいな佇まいだということになるので、なんだかビルっていう感じがしない。

「え〜? アレが池袋〜? おっき〜い! でも、箱に見えるけど袋なんですか〜?」

「あれは抗生教の本部。池袋というのは本部がある場所の地名です」

 天の声風のよれひーさん。

 箱に見えるか?

 厚みが感じられないので私には箱にも見えない。

 でも、おそらく箱だろうな、という予想はしてる。

 反対側が扇形とかの思いもよらない形だった時にびっくりする用意はある。まぁ、びっくりする用意がない時の方がびっくりはするんだけどね……。

「見慣れない感じの建物ですね」

「いままで見たことないですか? 割と有名な建物だと思いますけど」

「はじめて見ます」

 というか、抗生教というのを知らなかったんだから、本部をはじめて見るのは当然に近いと思う。

 よれひーさんとやり取りしてるのは私。

 ぞっちゃんがボケたので、後の普通の会話は私の役目だろうということで、普通っぽく聞こえるはずの質問を、カメラに向けてしているのだ。見慣れないものとかには私としても食いつきやすい。

「あれで見た目ほどには怖いところではないですから、さっそく近づいて行きましょう」

 と、天の声に誘われて、そちらに向かってゆくことになった。


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