7月28日(木) 14:20 三日目:赤羽池袋間路上・砲撃跡空地
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第十一章 徒歩で行く新世界。そこは池袋。
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7月28日(木)
14:20
三日目
赤羽池袋間路上
砲撃跡空地
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未舗装ではあるものの車だって問題なく通れるであろうというぐらいよく整備された道を、かなり悠長に歩いて二時間半。概ねだいたい森の中だから景色の変化にも乏しくて、多少のアップダウンはあるんだけど山坂というほどでもなく、のんびりした行程だった。
時々思い出したように生えている木の背が低いところ、木が無いところがある。
こういう場所はなんなのかと思ってやちよちゃんを捕まえて立ち止まる。
やちよちゃんによると、こういうのはTOX攻撃のときの防衛隊の砲撃跡地だそうで。
「砲撃って、大砲ってこと?」
「戦車が多いらしいよ」
「戦車の大砲って、こんなに大きな痕が残るもんなんだ……」
「どっちかって言うと火災」
「え? 火災? 森の中で? そうしたらもっとひどく燃え広がるんじゃないの?」
「生木だからあんまり燃えないんだって」
「ああ、そうか。そうかもね……」
「あんまり酷かったら抗生教も消しに来るしね」
「え? 消防車とか消防ヘリとかがあるの?」
「機械じゃないよ。なにかしらそういう能力者が居るんだ」
「ああ、そっか。東京だもんね……」
消防車やヘリなんかを使わない消火作業というのがどんなものなのか、とっさには思い浮かばない。おそらく、機械がやるような人間の手に余る部分を能力者の能力で補うってことなんだろうとはおもうけど。
「外の能力者は消火活動とかしないの?」
「能力者がたくさん居るってわけでもないし、機械でできることは機械でするのが普通なんだと思う。あとは、基本的に防衛隊がTOXとの戦いのために能力を使うかどうかを決めてるし、強い能力の人は戦いに使うのが多いんじゃないかな。たぶん」
「ふーん、不自由なんだね」
「不自由……かなぁ?」
考えたこともなかったけど、そう言われたらそうなのかも。
「不自由だよ。せっかくの能力を使えることが少ない。能力が有るせいで外に居られなくなったから東京に来たっていう人も多いし、それどころか能力が有る子供を捨てに来るような親もいる。便利な能力があるだけで住みにくいなんて変な話に決まってる」
「そう……かもね……」
やちよちゃんにそういう意図はないんだろうけど、幹侍郎ちゃんのことを考えて胸が痛む。暮らしにくいどころか隠れて生きないといけない。なんとなくそうするのが当たり前のような気がして受け入れていたけど、それが正しいことかと言うと違うだろうとは思う。
とはいえ、一方で、実際にその身の上になってみると、今の世の中で不正義に抗って幹侍郎ちゃんが公然と姿を表すことができるのかといえば、それは無理だろう。実際にそうしてみたらどうなるだろうと考えてみても、具体的なビジョンより先に恐怖を感じる。
私達が正義に基づいて振る舞っても、私達以外の人が受け入れないだろう。
幹侍郎ちゃんが世の中で暮らすことを許してくれるようであって欲しいとは思う。けど、思うだけでそのようになるわけでもない。
「……佐々也ちゃん? ごめんね。佐々也ちゃんが悪いって言いたいわけじゃないんだよ」
私が考えていることを見透かしたようにやちよちゃんがフォローしてくれる。
やちよちゃんに幹侍郎ちゃんのことは話してないから、これは特にそういう意味ではないはずだ。……つまりどういうことだ? なにかを察したのか?
かまをかけたりしたほうが良いのか?
そんなことを考えたけど、次の瞬間に口から出てきたのは
「……え?」
という、怯えたかのような掠れ声だった。
あ、まずい。収録は?
見回すと、カメラとぞっちゃんは先に進んでいる。
私とやちよちゃんは立ち止まってるんだから当然だ。




