……7月28日(木) 13:00 三日目:赤羽池袋間路上
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第十一章 徒歩で行く新世界。そこは池袋。
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「教団は困ってる人を手助けしたりもしてるし、みんなのために道路を整備したりもしてる。そういうものが国なんじゃないの?」
「宗教団体がそんなことをするの?」
「うん」
「私が知ってる宗教っていうのと、なんかイメージが違うな……。たしかに、やってることだけ聞いたら国とか自治体みたいだね」
「自治体?」
「埼玉県、とか、千葉県、とか聞いたことない?」
「そういうのは土地の名前なんだと思ってた」
「たしかに土地の名前でもあるんだけど……、その土地に代表みたいな人たちが居て、みんなで暮らすための決まりを作ったり道路とか水道とかを整備したりもしてるんだよ」
「そういうのをするのが国なんじゃないの?」
素朴な疑問。私も、なにが違うとか合ってるとか、迂闊に答えられない。でも、こういう質問に答えてあげないと、質問をはぐらかすって思われてしまう。でも嘘も良くない。
学校で習ったことと自分の知っていることを思い出して、その間ぐらいのことを、相手にわかりやすく……。
「国がなにもかもやると仕事が増えすぎちゃうから、国の一部分が、国の仕事を分担してやってるイメージかな?」
「……ああ。つまり、教会みたいなもんだね」
「教会って、お祈りをする場所なんじゃないの?」
「教会でお祈り? してもいいけど、普通はしないなぁ」
「そうなの? ……」
私とやちよちゃんで、使っている言葉位の意味がお互いに噛み合っていない。
教会という言葉で私がイメージするのは、十字架があって神父さんが居て……。ああ、これだとキリスト教か。いま思いつかないといけないのは抗生教の教会だ。でもキリスト教以外の教会と言われてもなんにも思いつかない。ユダヤ教がシナゴーグでイスラム教がモスクだっけ? これは教会とは違うのかどうか、翻訳するとどうなるかとか、ほんとにわからない。ゾロアスター教とか、ギリシャ神話の宗教とか、そういうのの教会はどうかとか、お寺とか神社とかと教会はなにが違うのかとか、ほんとになんにもわからない。
なんというか、お互いの使っている言葉に対する知識状態が違いすぎて、ぜんぜん話が通じない。
「うーん。話だけを聞いてもわからないみたいだから、実際に行ってみるしかないみたいだな。抗生教のことがもう少し分かったら、またこの話をしよう」
「いいけど……、佐々也ちゃんが抗生教のことを理解したら、私が聞きたいことは特に無いんだけど」
「そうだっけ? そうだったかも」
いずれにせよよくわからない。お祈りをしない? 国みたいなもの?
「ああ、一向一揆か……」
歴史で習った知識がこんな所で役に立つとは。ぼんやりとしか知らないけど、なにかそういう話だった。宗教だけど織田信長とかと戦ったとかなんとか。
「いっこういっき? なにそれ?」
「いや、こっちの話。学校でそんなこと習ったんだよ」
「なにそれ? 習ったっけ?」
これはぞっちゃん。私とやちよちゃんの噛み合わない話でも、しっかり聞いていたみたいだ。いや、カメラで撮られてるから、ぞっちゃんだけじゃなくてみんな聞いてるんだけど。
「中学生の日本の古代史でね。ぞっちゃんだって同じクラスに居たでしょ?」
「私は興味無いとすぐ忘れちゃうからなぁ」
「まぁ、古代史だからあんまり詳しくはやってなかったかもしれないけど、戦国時代ね、戦国時代」
「太陽系時代のこととか、昔のこと過ぎて興味ないなぁ」
ぞっちゃんはにべもない。
私だけが変なことを言ってるみたいだと困るので、ハルカちゃんに振ってみよう。
「ハルカちゃんは太陽系時代のこと興味あるよね?」
「太陽系時代だとしても、戦国時代にはアイドルアニメもなかったから……」
「……それは確かに、無かっただろうね……」
アニメというか、太陽系時代で現代とほぼ同じぐらいの機械文明になってきたのは世界大戦時代以降だという話だった。戦国時代はそれより前、異世界ファンタジーみたいな時代だ。
私だって特別に興味があるわけじゃないけど、話としてはけっこう面白いじゃん、歴史。




