……6月21日(火) 15:40
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第二章 遙か彼方のあの星の流転の果ての悠久の……
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「……あのこれ、指はどうすれば?」
「あげる」
これをですか……。
悪くすると呪われそうというか、安めに見積もってもかなり気持ち悪いと言うか……。
「その……、くっつけたりしなくていいの?」
「あなたたちもそうだと思うけど、切れた指はさすがにくっつかないから」
そうですか。
まぁそうですよね。おっしゃる通り、私も指が切れたらくっつかない。
でも、私は自分で指を切り落としたりはしないんですよね。それどころか、天宮さんも私が指を切ってしまうのを止めてくれたりしたわけです。そこには非対称性がある。まぁ、ありますよね。それを聞こうと思って集まってるんだから。
くっつくかどうかで言えば、実際には人間の指は切断部のイキが良くて適切に医療を施してそれがうまく行けばくっつくらしいんだけど、そういう豆知識を試されているというわけではないはずだ。天宮さんに対する適切な医療と言うと……。そもそも医療なのか?壊れたものをくっつけるというと修理とか? 金継ぎでもする? いや、どうでもいいんだこんなことは。頭が回ることは回るんだけど、動転しているので意味のない方向に思考が走って行く。
「その……、指が無いと不便じゃない?」
「それはまた生えてくるから」
「生えるのか……」
正直、天宮さんの異常性に関しては真面目に恐怖を感じる部分もあるんだけど、異常すぎてちょっと面白いというか、異常さに対する発見が恐怖に直結しないときにはなんだかギャグの空気も漂ってるんだよな。奇しくもさっきゴジに言ったみたいに、なんかマンガっぽいというか。
この辺、天宮さんの顔が良いせいで無害そうに感じるせいかもしれない。
ところがこの感覚は私だけが感じている可能性がある。
なぜならばゴジは硬直したままだから。怖いんだろうな。
わかる。これについては私のほうがバグってる気がする。
いやしかし、それでもこの指をくれると言われてもなぁ……。
リアルな造形の指の模型だと思えば、そっち方面のマニアには需要があるかもしれないのか。私は違うけど、処分するならそっち方面を検討すればよいのかな。
「指、ネットオークションで売っても良ければ引き取るけど……」
「……それは困る。じゃあ、こうしようか」
天宮さんは私の掌から切れた自分の指をつまみ上げると、そのまま自分の口に運んで飲み込んだ。
「……おいしい?」
他に言葉が出なかったからこんな聞き方になっちゃったけど、我ながらめちゃめちゃ嫌な顔をしていたと思う。いや、だってさすがにこれは気持ち悪い。本人の言葉によると、人間とはちょっと違うらしいけど、見ただけなら切り落とした自分の指を食べちゃったようにしか見えないし。
「食べたわけじゃないよ。素材回収。回収しなくてもやっていけるから、あんまり意味がないんだけど」
……ちょっと何を言っているのかが分からない。
本人によればちょっと人間と違うということだけど、それはよく分かった。
違うのはわかったとして、本当にちょっとなのかという部分にはまだ釈然としないものがあるけど、いまのところ指を切り落としても大丈夫なところしか知らないから、他の部分は意外と似てるのかもしれない。
……そういう可能性が消えたわけじゃない。
* * *
天宮さんの求めに従って、とりあえず学校から場所を移すことにした。
指のくだりがあった上で天宮さんの求めに応じないのも恐ろしいし、とはいえ流石に自分の指を食べる人を自宅に招こうかという気持ちにもなれなくなった。しかしながら一方で、やる気だったらとっくにもっとひどい事になってる理論もかなりの説得力があるわけでもあり、天宮さんと話すことで身の危険を感じるかといえばそれほどでもない。




