……7月28日(木) 12:30〜13:00 三日目:赤羽池袋間路上
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第十一章 徒歩で行く新世界。そこは池袋。
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「ハルカちゃん、あっちの山って方角的にはどっちになるの?」
「南東から南ぐらいの方角」
「やっぱり分かるんだね」
「左側のあれは、山じゃなくてクレーターだよ」
カメラの近くで、ぞっちゃんを意識しながらやちよちゃんが答えている。
私とハルカちゃんは、二三歩そこから間を開けている。
「クレーターって、穴になってへっこんでるんじゃないの?」
「あの向こう側がへこんでる、というかお椀型の谷なんだよ。谷底は海になっちゃってるけど」
「クレーターの外側って、衝立みたいになってるんじゃないんだ……」
「あれでも海抜五〇〇メートルぐらいはあるから、まぁまぁの山だと思うけど……。実際に見てみると、穴の内側の崖は切り立ってるイメージだけど、外側はどちらかと言えば坂道ぐらいになってる感じだね」
「へぇ。クレーターって言われたらなんか荒れ地に岩山の衝立が立ってるような感じかと思ってたけど、違うもんなんだね。こっちから見ると近所の山より緩やかなぐらいだ」
やちよちゃんのガイドを聞いて素直に関心した。
すると、すぐ隣りにいたハルカちゃんが、小声で答えてくれた。
「隕石なんかが衝突したときにできるクレーターっていうのは内側の土が吹き飛ばされて外側に順々に積もっていく感じだから外側に切り立った崖ができることはないんだよ」
聞けばなるほどという説明だ。
ハルカちゃんが小声なのはカメラの外の会話をあまり大声ですると映像が使いづらくなってしまうという心遣いのような気がする。私も小声で喋ったほうが良いのかもな。
「なるほど。あれ? だとすると、なんで私は衝立みたいなイメージだったんだろ? あれかな、水滴が落ちた時の王冠のイメージかな?」
私の先入観なんだから、こんなこと他人に聞いてみたって答えてくれるわけないんだけど、疑問がつい口から出ちゃう。というかむしろ、言いながら考えてる感じだ。
「えーと、ぶつかった瞬間に王冠みたいになるのはそんなに間違いじゃない。液体みたいに表面張力でまとまることはないから、トゲトゲの先端に丸の部分はできないけど。それで、ドサドサっと吹き飛ばされたものが落ちて積み重なる。液体ならへこんだところに跳ねた分が戻っていくけど、クレーターは固体だから流れて元に戻るわけではないって感じかなぁ」
「ああ……。なんかイメージが繋がった」
ハルカちゃんと話し込んでるうちに、カメラ前にいるぞっちゃんとやちよちゃんから少し離れてしまった。少し急いで前に追いつかなきゃ。
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7月28日(木)
13:00
三日目
赤羽池袋間路上
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森の中の一本道をおしゃべりしながら歩き、なんの気もないおしゃべりの一言として、ぞっちゃんがふと思いついたように言った。
「池袋にもコンビニあるかなぁ?」
「無いよ」
やちよちゃんが軽く答える。
「無いの? 他にお菓子売ってるお店は?」
「無いよ。池袋にはお店はない」
「そしたら住んでる人たちもお買い物に困るねぇ」
「池袋では買い物をする必要がないんだよ」
やちよちゃんの言葉が謎掛けみたいになってきた。
「……池袋にはなにがあるの?」
「抗生教団の本部があって、東京で一番たくさん人が住んでる」
「ああ、抗生教……」
つい声が出てしまった。
「さーちゃん、どうかした?」
「あ、いや、またその名前かと思って。ついさっき、やちよちゃんと話してるときにも出た名前なんだ」
「東京で教団の名前を聞かないでいることは無理……ってほどじゃないけど、実質、国みたいなものだから」
やちよちゃんが不思議な表情でそんな事を言う。
「国? 宗教なのに?」
「教団は困ってる人を手助けしたりもしてるし、みんなのために道路を整備したりもしてる。そういうものが国なんじゃないの?」
「宗教団体がそんなことをするの?」
「うん」
ちょっと想像していなかったので問い返したら、簡潔な答え。




