7月28日(木) 12:30 三日目:赤羽池袋間路上
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第十一章 徒歩で行く新世界。そこは池袋。
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7月28日(木)
12:30
三日目
赤羽池袋間路上
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赤羽から池袋の間は、森の中にある道を歩くことになった。
埼玉との境の川を渡ってからずっとそうなのだけど、雑木林の中アスファルト未舗装の道路。道自体は土が固められ綺麗に整えられていて、見慣れた道路のように白線で車線が描かれていたりはしないけど、大きめの車がすれ違えるぐらいの広さがある。
木々の間、広くてきれいな道を歩くのは清々しくて、歩いてるだけでも意外なぐらい楽しい。乗せてもらった車で上を走っているときは、うちの近所と道の色が違うなーという程度の違いしか分からなかったんだけど、実際に歩いてみると足元を踏んだ感触なんかが違っている、……ような気がする。どっちの方が良いとかは判らないけど。
その道をみんなで固まってぼつぼつ歩きながら、いろいろ話したりするというのがこの番組の趣旨ということになるらしい。
「そういえば、いま通ってるような道っていうのは、なんで整備されてるんだろう?」
雑木林の中だから放置すれば木が生えるだろうし、下生えの類も無いとは言えないけど道が無くなるほどには侵食してきていない。整備された道であることは確実だ。
「なんでって道が無かったら不便だからだけど……」
私ぼんやり口にした疑問にやちよちゃんが答えてくれた。
「あ、そりゃそうだね。えーと、誰がどうやって整備しているのかを知りたかったんだ」
なにもしなければ存在するはずのない道なんていうものが整備されているのが不思議だ、という意味の「なんで整備されてるの?」だったんだけど、そりゃ誰かが整備してるに違いない。思ったままが口に出てしまうと、意味不明になってしまうことはよくある。気をつけないと……。普段から心がけては、いるんだけどね……。ついポロッとね……。
「それはもちろん教団だよ」
「ああ、なんだっけ? コウセイ教だっけ?」
「そうだよ。抗生教」
「どんな漢字だっけ? あんまり身近じゃないから、聞いても忘れちゃうんだよな」
「抵抗の抗に、生きるの生。抗生物質の抗生だよ」
説明を聞いて頭の中で思い浮かべる。抗生物質、と聞くと流石に覚えやすい。
「それはなんか、やっぱり抗生物質と関係あるの?」
「どうなんだろ? それは私が説明することじゃない気がする。教団にはそういう説明をする専門の係があるから、その人に聞いた方がいいんじゃないかな」
そう言いながら、やちよちゃんはカメラの方をちらっと見た。
発言が記録に残るとマズいのか? 教団に知られるとなんかあるとか?
と、喉まで出掛かったけど、仮に答えがイエスだった場合に、それを聞き出した私もヤバいことになる。「ごほごほっ」とむせて喋ろうとしていたことをごまかす。
「どしたのさーちゃん? 喉になんかつっかえた?」
ぞっちゃんはハルカちゃんとおしゃべりしてたんだけど、私がむせたらカメラに映るチャンスとみはからったんだろう、積極的に絡んでくる。
「大丈夫大丈夫。なにも口に入れてないから、喉につっかえたりしないよ」
物理的には。
比喩的には質問が喉につかえたから咳が出たんだよな。なかなか鋭いよぞっちゃん。
「いま道路の話してた?」
ぞっちゃんは誰の話にでも混ざりたい。どんな時でも。
今も私とやちよちゃんの話に混ざりたいんだろう。たまに鬱陶しいけど、人懐っこいがゆえの行動だと思えば、基本的には可愛い振る舞いだ。
「そうだっけかな? ああ、道の話だった」
「この道をずっと行くと池袋につくの?」
「うん。そうだよ」
やちよちゃんが答える。
「ふーん。じゃあ、あれは、左側の山は? 東京って、山がないイメージだったのに」
進行方向の向かって左側は、あまり高くはないながら低く平らな稜線の連なる山になっている。方向的には、あっちはどっちだろう?
「ハルカちゃん、あっちの山って方角的にはどっちになるの?」
「南東から南ぐらいの方角」
「やっぱり分かるんだね」
「まぁね。気にしてるから」
ハルカちゃんは苦笑いだ。




