……7月28日(木) 11:00 三日目:赤羽ホテルロビー・チェックアウト後
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第十一章 徒歩で行く新世界。そこは池袋。
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「TOXが降ってきた翌日とか二三日はそういうこともあるんだよ。でも、はぐれTOXはクレーターに移動したがるから、邪魔さえしなけりゃ危険はないんだけど」
「それは秘密にしておいてください。なんかちょっとそれっぽい、みたいな演出があった方が盛り上がるんです」
「うん。聞かれたから答えちゃったけど、あんまり口に出さないよう心がける」
私としては安全というところまでは納得しているので、よれひーさんの言葉に対して特段の感想はない。さっきのやつも、思ってた以上に原始的な棒という道具にびっくりしちゃっただけだし、やちよちゃんが対策不要だという説明をしてくれたそちらには納得できている。
それよりも、首に巻いたスカーフが気になってきた。身に付けるものならなんだってそうなってしまうんだけど、それが体に触っている部分が妙に気になる。着慣れた服なら気になる感じを無視するのにも慣れるんだけど、このスカーフは慣れてないから気になっちゃうんだよな。かゆいような気がしてきた。
いやいや撮影撮影。こんなことを気にしてたら台本の次のセリフに出遅れる。
「じゃあ、もう一回並んでください。並びました? じゃあ改めてキュー。……。まぁ、車も行っちゃいましたから、歩かないと池袋には到着しません。それじゃ改めてしゅっぱーつ!」
「おーっ!」
「おお……」「……おー」
なんか今度は私だけ場違いに元気いっぱいな感じになってしまったかもしれない……。
* * *
さて自由行動。
しつこいようだけど、この首のスカーフがすごく気になる……。
撮影開始してすぐ、私の意識はまた首元に向いてしまう。
肌触りが嫌だとかきつく巻いちゃって苦しいとかそういうことはない。でも、私はひらひらしたものというか、ずーっと接触していたり刻々と状態が変わるものとかが、すごく気になる性質だ。この布がちょっと動いたからってなんにも意味はないんだけど、どうしても気になってしまう。気にしなければ良いと言われたら本当にその通りで、私もそう思う。でも気になるのだ。
せっかくのお揃いで用意してくれたものだから無下にはしたくないけど、本当に苦手なのでどうにかならないものか。やちよちゃんは付けてなくてよくていいなぁ……。
……あ!
一挙両得の名案を思いついた!
「やちよちゃん、このスカーフ付けない?」
「え? それはみんなのグループのやつでしょ? 私は違うし」
「いいのいいの、グループなんてホントは無いから。普通の友達同士だけど、番組に必要だからぞっちゃんが名前つけただけみたいなことだからさ」
「でも……」
「いいのいいの。お揃いの布つけて、あの二人と一緒に写真撮ろうよ。ね?」
私の提案にやちよちゃんはどことなく不審げな表情だ。
「なんで二人と写真なの?」
「あの二人はアイドルグループみたいなもんだからさ。やちよちゃんも一緒に撮ったら、きっと可愛いよ」
「アイドルグループ?」
「歌ったり踊ったりするからね。番組でもやってたけど、見なかった?」
「見たよ。でもちょっと、なに言ってるのか良くわからない……」
「まぁまぁ一緒に番組に出るんだし、お揃いの布つけて写真撮ろうよ。はい、これ」
そう言って、私はブローチごとスカーフを外して、少し強引にやちよちゃんに渡す。
「ハルカちゃーん! ぞっちゃんとやちよちゃんと三人で、アイドルポーズして写真撮ってあげてよ」
「え? いいの?」
私の提案にハルカちゃんは乗り気だ。
たぶんアイドルごっこができて嬉しいんだろう。
「いいよいいよ。やちよちゃんには私のスカーフ渡したからさ、お揃いのカッコして並んで写真撮りなよ。アイドルのお仕事だよ」
私の言葉に合わせて、近寄っていったやちよちゃんがはい、という感じでスカーフを渡す。私は付けたまま渡したはずだけど、スカーフとブローチを外して、別々にしてハルカちゃんに渡したようだ。
「あー、うん。じゃあ、みーちゃんも一緒に撮ろ?」
「いいけど、カメラは? 私もその写真欲しい」
ぞっちゃんも写真を撮られるのは嫌いじゃないのですぐに了承する。
「私が撮るよ。写真は後で送るんでいい?」
「いいよ〜。じゃあ、やちよちゃん、スカーフつけようね。どういう感じが良いとかある?」
「付けたこと無いからわからない」
ハルカちゃんは、少し屈んでやちよちゃんの首元もを確認しているぞっちゃんにスカーフを渡す。




