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諸々が千々に降下してくる夏々の日々  作者: triskaidecagon
第十一章 徒歩で行く新世界。そこは池袋。
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……7月28日(木) 11:00 三日目:赤羽ホテルロビー・チェックアウト後

諸々が千々に降下してくる夏々の日々

 第十一章 徒歩で行く新世界。そこは池袋。


――――――――――― ――――――――――― ―――――――――――

「じゃあ、カメラは私が代わりましょうか?」

 そう言いながら、ハルカちゃんがカメラの方に向かって歩き始める。

「いやいやいや、レザミ・オリセちゃんのみんなには被写体の方をやってもらって、カメラは私がやります! カメラと天の声ですね。って、台本にも書いてあったでしょ?」

「流れ的に、台本にこだわらなくてもいいのかなーって思ったから……」


「……すいません冗談です」

 と言いながら、ハルカちゃんは引き下がる。

「ボケかぁ。安心したよぉ」

「わはは。じゃあ僕は、これで失礼しまーす」

 けんちゃんさんは笑いながらそう言って、よれひーさんにカメラを渡す。

 よれひーさんは去っていくけんちゃんさんともう一人のスタッフさん(桜さん)の後ろ姿をカメラで撮影。それが映像素材になるんだろう。

「こうして一行はけんちゃん達としばしのお別れ。池袋で再会の予定です」

「荷物も運んでくれるんですよね? 他のスタッフさんもみんなけんちゃんさんと一緒ですか?」

「ああ、いや。スタッフは半分づつです。歩きの移動についてきてくれる人たちも居ますよ」

「なるほど」

 これも台本。私のセリフだ。

 なるほどとか言っているけど、もちろん事前に説明を受けているし、手荷物以外の大きな荷物はすでに車に積んでいる。

「じゃあ出発しましょうか。直線距離だと一時間半ぐらいのはずなんですけど、必ずしもまっすぐ進むわけじゃないので、三時間ぐらいの予定です」

「東京のジャングルの中で、安全性は大丈夫なんでしょうか?」

 これはハルカちゃん。台本通りのセリフ。

「探検ですから、ちょっとは危険があるかもしれませんが、そのためのガイドさんですから」

「……ちょっとは危険かもしれないんですか?」

「あー、いや、大丈夫だと思いますよ? 大丈夫だと思いますけど、そこは探検ですからね。野生のTOXが絶対襲ってこないとは言えません。みなさんも気をつけてください」

 この点は事前に説明を受けているけど、そんな事はまず無いそうだ。

 番組の演出上の注意事項らしい。

「ええ~、怖い〜」

 と言いながら、ぞっちゃんが私の腕にしがみついて身を縮まらせるような台本外の演技をしている。実際に野生の(野生?)TOXが襲ってきたときに頼りになるとしたら、私よりもハルカちゃんだろうとは思うけど、まぁぞっちゃんはそれを知らないしな。

 とはいえ、もしハルカちゃんが居ないとしても、私よりぞっちゃんの方が強いだろう。なにしろぞっちゃんの方が運動神経もいいし、体も大きくて力もある。更に言うと度胸もあるんだから。

 ……ぞっちゃんが特別強いというより私が論外なぐらい弱いだけなんだけどね。

「そういうわけで、一応スタッフたちのキャラバンからは離れないように注意してください。TOX避けの特殊な音波が出る装置と、近づいてこないように抑えておくような長い棒とかもありますから」

「棒!?」

 思わず声が出てしまった。

 対策があるというところまでは事前の説明で聞いていたけど、具体的な対策が長い棒だとは思ってなかったのでびっくりしてしまった。

 ここでスタッフの川口さんが、長めのいわゆる物干し竿のような棒を取り出して伸ばしている。持ち運びやすいように折りたたみできるようにはなっているらしい。

「棒です。東京のTOXは人間を狙った行動をしたりはしないらしいんですが、近寄って来ないように棒でつついてどかすらしいんです」

「ほんとなの、やちよちゃん?」

「いやぁ? 音の方も棒の方も聞いたこと無いけど?」

「えええっ!」

「まぁでも、この時期に野生のTOXが出て危ないなんていう話も聞いたこと無いから、そんな用心も必要じゃないんだけど……」

「時期?」

「TOXが降ってきた翌日とか二三日はそういうこともあるんだよ。でも、はぐれTOXはクレーターに移動したがるから、邪魔さえしなけりゃ危険はないんだけど」

「それは秘密にしておいてください。なんかちょっとそれっぽい、みたいな演出があった方が盛り上がるんです」

「うん。聞かれたから答えちゃったけど、あんまり口に出さないよう心がける」

「ほんとに危険だったら僕だって来たくないからね。番組の体裁としては、危険な探検を楽しもうということにしてるだけで」

「うふふ」

 と声に出してぞっちゃんが笑っている。


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