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諸々が千々に降下してくる夏々の日々  作者: triskaidecagon
第十一章 徒歩で行く新世界。そこは池袋。
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……7月28日(木) 11:00 三日目:赤羽ホテルロビー・チェックアウト後

諸々が千々に降下してくる夏々の日々

 第十一章 徒歩で行く新世界。そこは池袋。


――――――――――― ――――――――――― ―――――――――――

 この『レザミ・オリセ色』のお揃いのスカーフは、衣装と一緒に用意したんだそうな。

 ただ、なんというか、首の周りにいらない布が巻き付いてるのはどうにも気になる。嫌でたまらない。……どうにか我慢できるぐらいではあるんだけど。

「本日は、徒歩で移動です!」

「「ええーっ!」」「……えーっ」

 台本通りならば、徒歩での移動を私達は嫌がってえーって言うはずだったけど、私は忘れてたので一歩出遅れてしまった。

「はい台本通りの反応ありがとう。まぁこれ、せっかくの東京探検なので、東京らしいジャングルの中を歩いて移動的な絵面がね欲しいわけです。配信業界で言うところのアレですよね、()(だか)になりますので」

「撮れ高! 大事大事。撮れ高大事ですよねぇ」

 よれひーさんに、当意即妙な反応をしているのはもちろんぞっちゃんで、ハルカちゃんはしれーっとしている。私はぞっちゃんの方をほへーっという顔で見ることをしている。

「おっ、佐々也ちゃんさん、どうかしましたか?」

「あっ、いえ。いまのぞっ……、みーちゃんのセリフ台本になかったのによく喋れるなぁと思って……」

「あわわ。さーちゃん、台本の話はあんまりしちゃ駄目だよ」

「あっはい。わかったであります。……その、不慣れなものでありますから……」

「なんで私に敬語なの?」

「いや、こう、番組に前向きに取り組もうとしたところ、ぞっちゃんはすごく頼りになる先輩なのではないかと思って」

「ぞっちゃん?」

 ぼんやり答えたら、ぞっちゃんの声色がそれと分かるほど変わった。

 普段はこういうことをしてくる子じゃないので、なんとなく目新しいので、ハッとして見返してしまった。

 それはそうと意図はわかるので、乗ってあげよう。

「あ、いや。ぞ……じゃなかった。みーちゃんは頼りになるなーって」

「もう一回言って!」

「ぞ……みーちゃん頼りになる!」

「ぞ無しでもう一回!」

「みーちゃん頼りになる! 凄い! 可愛い!」

「ありがとうさーちゃん。元気出てきた。また今度お菓子買いに行こうね?」

「えっ? ああ、うん、お菓子ね。また買いに行こう。ワーイ、ウレシー」

「やったぁ! さーちゃん大好き」

 棒読みで答えると、ぞっちゃんが両手で私の手を握ってブンブンと振り回す。

 女の子らしくて可愛い仕草だと思うんだけど、ぞっちゃんはパワーがあるから私の方は振り回されがちで頭ががくがく揺れてしまう。

 いや、ぞっちゃんに並外れたパワーがあるとかじゃなくて、私が人並み以上に非力なだけだけどさ……。

「……いまのも台本にはなかったよね?」

 よれひーさんが私達にではなく、カメラに向かって話しかけている。

 けんちゃんさんがカメラがこくこくと縦に振って肯定の返事をしている。

「ふたりとも台本がないと喋れないなんてことないと思うんだけど……」

 私はなにか返事をした方がいいのかな、と思ったけど、ぞっちゃんが手をぎゅっと握りながら、目で「ここはスルーしてくれ」と訴えてきた。

 器用だ……。

 けどまぁ言いたいことが伝わってきたので、ここは頼りになるぞっちゃんの指示通りになにも言わないでおこう。


「はいじゃあここで! カメラのけんちゃんとも一旦お別れでーす!」

「「ええーっ!」」「……えーっ」

「はい、今度も台本通りの反応ありがとう。けんちゃんには車を運んでもらいますので」

「じゃあ、カメラは私が代わりましょうか?」

 そう言いながら、ハルカちゃんがカメラの方に向かって歩き始める。

「いやいやいや、レザミ・オリセちゃんのみんなには被写体の方をやってもらって、カメラは私がやります! カメラと天の声ですね。って、台本にも書いてあったでしょ?」

「流れ的に、台本にこだわらなくてもいいのかなーって思ったから……」

「いやいやいや、天の声もやらなくちゃいけないからね? 僕もちょっと天の声が楽しいかもって思ってきたから」

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