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諸々が千々に降下してくる夏々の日々  作者: triskaidecagon
第一〇章 未知なる土地に辿り着き、なんだかやたらと緊張している。
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……7月26日(火) 17:30 一日目:マルシチ赤羽店

諸々が千々に降下してくる夏々の日々

 第一〇章 未知なる土地に辿り着き、なんだかやたらと緊張している。


――――――――――― ――――――――――― ―――――――――――

「さーちゃん、どれにする?」

 ぞっちゃんの目の前の棚を見ると、確かにお菓子の棚だった。

 スナック菓子とキャンディー類とチョコ・クッキー類、和菓子なんかもある。

 商品の種類も、特別なこの場所だけのものというよりうちの近所で見慣れたものと同じ。

「こうして並んでるのを見ると、コンビニっぽいなぁ」

「ね? コンビニは東京でもおんなじだね。さーちゃん、どれにする?」

「うーん、そうだなぁ……」

 ぞっちゃんにしていればおんなじっていうのは、肯定的な印象の言葉なのだろう。共感のもとになる感覚だろうし、わからないこともない話だ。でも実際にお菓子を選ぶ私としてみたら、わざわざ東京まで来て少ない選択肢からいつもと同じお菓子を選ぶのが楽しいのかと言えばそれほどでもない。店内を見て回って、いつもと違うところを見物するほうが楽しいぐらいだ。

 でもここは、お菓子を選ばないといけない。

 選ぶのが急に億劫になってしまい、隣りにいるやちよちゃんに意見を聞くことにした。

「やちよちゃん、なに食べたい? 私と分けっこしよ?」

「え? いいの? そしたら私はこれがいい」

 やちよちゃんが指さしたのはファンシーな猫のキャラクターをかたどったソーダ味のグミだった。見た目が可愛らしいけど、あんまり美味しくないし食べごたえも無さそうで、私なら選ばないやつだ。

 でも、たまにはそういうのもいいか。

「じゃあ、それにしよ……」

 う、と私が言おうとした所で「やちよちゃんはこれね」と言ってぞっちゃんがそれを取ってしまう。その上で「さーちゃんはどうする?」だって。

 こう言ってはなんだけど、私はお菓子にそれほど強いこだわりはないんだよ。もちろん嫌いじゃないし普通に食べるけど、口に入っちゃえばなんだって同じみたいなところはある。

「おおう……。ぞっちゃん、やちよちゃんにも買ってあげるのか。優しいなぁ」

「みんなで来てるのに、一人だけ買ってあげるなんて贔屓になっちゃうでしょ」

「じゃあ、よれひーさんはなにがいいですか?」

「え? 僕? そうだなぁ……。チョコがいいな」

「じゃあ私はそれを……」

「板チョコでいいですか? じゃあ、これにします。で、さーちゃんは?」

 と、ぞっっちゃんは私の逃げの選択を許さず、さっと巻き取っていく。

「圧が高めですね」

 と、天の声のよれひーさん。

 私と同じ感想らしい。

「さーちゃんは遠慮してるんです。そういうところがあって」

 私が選びあぐねていることが、ぞっちゃんには確実にバレている。

 実際には遠慮ではなくて、私はこういうときに一度どうでも良くなってしまうと、逆に選ぶのが苦痛になってしまったりすることがある。いまがそれだ。それでお菓子をもらえなくなったりしても私は恨みに思ったりはしないんだけど、ぞっちゃんはこういうときにお菓子をもらっていない子が居ると気になって仕方ない。

 この辺りは人間性の違いだ。

 私が昼休みにふらふら図書室に行ったりしてると、帰ってきた時にティッシュに乗せて避けておいたお菓子をくれたりする。私は君たちがお菓子を食べてるなんて知りもしなかったんだから別に分けてくれたりしなくてもいいのに……。

 ぞっちゃんは周りを気にする時、人をよく見ているということなんだろう。

 それに対して私がどういう性格なのかもぞっちゃんは知っていて、これが遠慮じゃないことも知ってるからこそ、こうして強めに圧をかけてくるんだよな。私がめんどくさくなってることをオブラートに包んだのが遠慮という言葉なんだろう。

 私はぞっちゃんの性格を知ってるからこういうのも別に不愉快ではない。

 ぞっちゃんぽいなぁとは思うけど。

 まぁでも、こうなると選ばないといけないなぁ。

「じゃあ……、これにする」

 と言って手に取ったのは少し大きめの羊羹。一口サイズとは言えない、切らないと食べられないやつ。袋菓子が並ぶ中にこれが置いてあって、どうしても目に付いてしまった。

「佐々也ちゃんさん、なかなかパワー系のお菓子選びですね」

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