7月26日(火) 17:30 一日目:マルシチ赤羽店
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第一〇章 未知なる土地に辿り着き、なんだかやたらと緊張している。
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「ごー! よーん! さーん!」
よれひーさんとけんちゃんさんの連携で、今から始まるらしい。
けんちゃんさんは、三のあと、二、一、を指で出して、ゼロで大きく腕を振り下ろす。
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7月26日(火)
17:30
一日目
マルシチ赤羽店
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「はーい、みなさんおはよーろれいっひー。よれひーストリームのよれひーでーす。映ってる? 映ってるかな?」
そう言いながら、よれひーさんはスタッフを横目で見る。
映像を確認している川口さんが両手で大きく◯の合図。
「映ってるね。よし。はい、僕の姿が見えないですか? 今回はカメラをやってまーす。いやぁ、告知が十分前でごめんなさい。これから生配信。アーカイブは残す予定だから、今すぐ見れない人は後で見てください」
「よろしくおねがいしまーす」
と、ぞっちゃんが声を上げてお辞儀。
私は唖然としてぞっちゃんの方に顔を向けてしまう。
え? 黙ってろって言われなかったっけ?(※言われてない)
「はいよろしく。今日はこれからレザミオリセのみーちゃんさんと佐々也ちゃんさん、それから、現地ガイドのやちよちゃんさんと一緒にコンビニに行きまーす。えーと、やちよちゃんさんは初登場ですね。よろしくおねがいしまーす!」
「よろしくおねがいします」
よれひーさんの挨拶に、常識的な返事をやちよちゃんが返す。
「ここは東京赤羽、ホテル近くのコンビニの前。……。おっ、これは見慣れたコンビニですね。どうですか、佐々也ちゃんさん」
「え? 見慣れた? マルシチですね。はい、私の地元にもあるから、このお店の装飾の感じは見慣れてます」
「おっと地元の地名は言わないでくださいね。生配信なので」
「はい……」
昨日、つい名前を出しちゃって、ピー音で編集してもらったのを思い出して、ちょっと気まずい。
「ここのコンビニは地下なんですね。おもしろーい。うちの近所のマルシチは建物があるから、なんかちょっといつもと違う感じがする」
「え? 麓の町のモールの地下にはコンビニ有るよ。マルシチじゃなくてローソーソンだけど」
「そうだね〜。でも、ここはなんていうか、ちょっと違うじゃん。モールの地下っぽくないっていうか、地下なのに車でコンビニの前まで来れるし」
ぞっちゃんのセリフが説明的だ。見ている人への配慮なのだろう。良い心がけだと思うので、私も付き合うことにする。
「ほんとだ! そういえば違うね。あと周りがなんかちょっと暗いかな」
「ショッピングモールほど明るくはないけど、雨の日の教室ぐらいだよ」
「そういえばそうかも。なるほど、マルシチもなんだかちょっと看板とかが暗いのかな?」
「さーちゃん、暗いの嫌い?」
「え? 別に嫌いじゃないよ? むしろこれぐらいのほうが落ち着く」
「なら良かった」
ぞっちゃんの不思議な質問をきっかけにちょっと黙ったら、よれひーさんが入ってきた。
「はい、ありがとうございます。なんか、説明が上手いですね? 台本があるとか?」
「え? 台本があるんですか? 私にも見せてほしい」
「無いよ、さーちゃん。いまのは褒め言葉。遠回しに話がスムーズだったって言われたの」
よれひーさんの言葉に素直に反応したら、ぞっちゃんがひそひそっぽい声で教えてくれた。
「そうなの? これはどうも。あ!」
お礼を言ってるうちに気がついたので、つい声が出た。
「どうしたのさーちゃん?」
「東京ってどうやって発電してるのかなーって思って……」
「それは秘密らしいです。ただ、お察しのとおり、電力事情はあまり良くないんですよね。むしろ電力があるっていう方に驚くべきかもしれないと思います」
「そっか……、看板が光ってるだけでも、かなり凄いことなんだ……。東京って過酷な場所だなぁ……」
「過酷ってほどのことじゃないよ。外地には電気が豊富なだけで、ここでも家で使う分の電気はある。それにここの看板が暗くても別に困らないから」
ここまで無言でいたやちよちゃんが答えてくれた。
私の言い方があんまり良くなかったんだろうという自覚はある。
「はい、現地ガイドのやちよちゃんは東京にお住まいで地元には詳しいので、解説よろしくおねがいしまーす」
「がんばります」




