……7月26日(火) 16:30 一日目:ホテル赤羽
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第一〇章 未知なる土地に辿り着き、なんだかやたらと緊張している。
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「赤羽なら、コンビニがあるよ」
「コンビニ? って、コンビニエンスストア?」
ほんとはさっき見てるんだけど、カメラの前だからまぁサービスだ。
「そう。マルシチ」
「チェーン店じゃん!」
「コンビニって言ったら、大抵はチェーン店じゃない?」
私が驚いてみせたら、ぞっちゃんが聞き返してきた。
「そうじゃなくて、東京にもチェーン店があるんだなって」
「逆に東京にチェーン店があるのはコンビニぐらいなんだけど」
「はえー、そういうもんですか」
考えてみれば、うちの近所もチェーン店と言えるのはコンビニぐらいだ。
なんとなく意外だと感じていたんだけど、当たり前といえば当たり前なのかも。
「はいカット」
と、私が一息ついたらそこでキリが良くなったらしくていったん撮影終了。
「じゃあさーちゃん、お菓子買いに行こう? 約束したし、おごるよ」
「あ、ほんとに買ってくれるのか……。ありがとう。でも、買いに行って平気ですか?」
「コンビニ行っていいかって聞いてる? 危険とかではないよ」
私が聞いたらやちよちゃんが答えてくれた。
「待って! それならそれを配信したいな。お店で、お菓子買うんですよね?」
「はい。約束したから、さーちゃんにお菓子買ってあげたい」
「別にいいのに……。嬉しくないわけじゃないけど、こだわる必要ないよ」
「その場を盛り上げるためだけに口だけの約束するようになったらおしまいなんだよさーちゃん! 私はそんな女じゃないんだから!」
たしかにぞっちゃんは、口先だけの約束をするタイプじゃない。
そういう感じというより、はぐらかして必要な約束でもあんまりしないタイプかもしれない。いままでそんなことを考えたこともなかったけど。
「あっ、ぞっちゃんの熱い魂が眩しい。私、ぞっちゃんのこと好きになりそう。お菓子も買ってもらうね」
私は口先だけで好きになりそうとか言えちゃうタイプだ。
というか私の場合は思っていないけどその場に必要なことを言わないと社会をやることができないという感じかもしれない。
そもそもぞっちゃんのことは元々かなり好きな方だから、今のきっかけで態度が変わったりしてない。田舎育ちで友だちが少ないから、好きも嫌いもないってのもあるけど。
いやこれは違うか。
友だちに恵まれてるから、これまで誰が好きで誰が嫌いって順番をつける必要がなかっただけだったんだろうと思う。
* * *
「うん。じゃあ、コンビニで撮影していいか許可取りに行ってきますね」
「私が行ってくるよ。そういうのもガイドの仕事だから」
「どういう撮影をしたいのかが僕の頭にしかないから。……許可を求めるなら、それを説明しないといけないし、下見も兼ねたいので」
「じゃあ一緒に行こう」
そう言い残して、よれひーさんとやちよちゃんは一緒にコンビニに向かっていった。ぞっちゃんも「見学してくる」と言いながら着いて行った。
コンビニはホテルの斜め向かいにある。
斜め向かいにあるというか、ホテルの向かいの駐車場に横向きに面している感じだ。
もちろん地下。
けんちゃんさんが構えているカメラはロビー内で入口の扉に寄ってコンビニに向かうみんなの背中を撮っている。入口の扉は外からだと不透明に見えたけど、内側から近づいて見ると色の濃いスモークになっていて外がうっすらと透けて見える。それを撮っているようだ。
この感じだと、カメラのためにも私は残ったほうがいいような気がする。
「コンビニが近くて便利ですね」
と、ホテルのフロントのおじさんに話しかけたら、あのコンビニは外から来るお客さん相手の商売だから近くて当然みたいなところがあるんだそうだ。地元の人はコンビニに来ないのか聞いてみたら、あんまりだとか。
コンビニで手に入るものは大宮の量販店の方が安いし、東京での暮らしに外のお店で買うのと同じものが急にちょっと必要になるわけではないとかなんとか。
コンビニという名前で呼ばれてはいるけど、お店としての使われ方は自分の家の近所のコンビニとはけっこう違うみたい。まあでも駅の中のコンビニだってうちの近所とは使われ方は違うんだし、それを考えたらそんなこといくらでもあるはずだけど。
違うのは違うとして、どう違うのかっていうのにはちょっと興味が出てきた。知ったからってなにってことはないけど、好奇心っていうのはなんだってそうだ。
「じゃあ、私は戻るね」




