……7月26日(火) 16:30 一日目:ホテル赤羽
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第一〇章 未知なる土地に辿り着き、なんだかやたらと緊張している。
――――――――――― ――――――――――― ―――――――――――
しかし、ぞみーちゃんか……。
「でも、なんでぞみーちゃんなの?」
「なんでって……、佐々也ちゃんがそう呼んでるからだよ」
「へ? あたし、そんな呼び方してないよ。初めて聞いたもん」
「呼んでるよー。『ぞ……みーちゃん』って」
「ああ、そういうことか! ……えーっ! 私のせいかぁ……。これまたぞっちゃんに怒られちゃうかもなぁ……」
ぞっちゃんがゾンビを可愛いと思うタイプの子なら良かったんだけど、違うしなぁ。ぞっちゃんは小さい頃から花柄とかキラキラとかそういうのが好きなタイプだ。
「ぞみーちゃん、怒ると怖いの?」
「いや、怖くはないよ。でも友達だから、ぞっちゃんが怒ってると私は悲しいんだ」
「やっぱり友達なんだね」
やちよちゃんがちょっと驚いたみたいな目で見てくる。
「そりゃそうだよ! なんでそんなこと言うの?」
「性格は本当と違うって言うから、友達も違うのかと思って。ストリームの人の友達ってビジネスで友達してる人もけっこう多いみたいだから」
「いやいや、違うよ。私とぞっちゃんは一緒の学校に行ってるし、幼馴染だよ」
「ふーん」
そうこうするうちにロビーにたどり着いた。
ホテルのロビーと言うとなんかそれだけで高級な印象を持ってしまうけど、そういう名前なだけでロビーと言うより玄関周辺の待合室ぐらいの雰囲気なんだけど。
私とやちよちゃんが辿り着いたとき、ぞっちゃんとハルカちゃんはそこで同行のスタッフさんたちから荷物を受け取っている最中だった。
「よれひーさん。この人がガイドの人、って言ってましたよ」
やちよちゃんを連れて、よれひーさんに引き会わせる。
「あれ? この人が? いつもの岩淵さんじゃないんですね」
「そうそう。岩淵の紹介で来たんだよ」
「そうなんですか? 事前に聞いては居ないけど……。でも、確かに誰が来るかは事前に取り決めていなかったな……。ちょっと岩淵さんに聞いてみます」
「じゃあ私が連絡つける」
そう言って、やちよちゃんは自分の端末で岩淵さんを呼び出した。
「やちよだけど。あの、ガイド役が私に交代した件、来てみたらよれひーは知らないって……」
二三言話したあと、やちよちゃんはよれひーさんに交代し、そのまま、やちよちゃんの端末でよれひーさんと、通話の向こうの岩淵さんはやり取りをしていた。
そのやりとりには私は関係ないので、私も手荷物を受け取りに行く。ぞっちゃんは転がす式のスーツケースがふたつ、ハルカちゃんはひとつ、私は肩掛け式の大きなカバン。
渡されるときにスタッフさんから声をかけられた。
「二人に比べたら、佐々也ちゃんさんは荷物が小さいですね」
「私は二人に比べたら服に気を使わない方だから、荷物も小さいんだと思います」
実際、五日分の着替えと二日分の予備という感じだ。端末なんかは手回り品としてさっきのリュックに入ってる。化粧はしない。体調が悪くなる予定もない。雨具は忘れた。荷物が増えるはずがない。
「知り合いのガイドさんに確認したら、やっぱりやちよちゃんがガイドでいいみたい。じゃあいちおう、自己紹介の撮影をしようか」
と、よれひーさん。
確認が取れたらしい。
「撮影? 今ですか?」
驚いたので思わず口から出てしまった。
「そうですね。ちょっとだけ。再編集版なんかを作るときに、時系列順のできごと紹介があると良くて、そのためにもお願いします」
そういってカメラを構えている。
「いいよ。これ始まってますか? こんにちわ、やちよです。東京のガイドをします。よろしくおねがいします」
カメラを見てまっすぐ喋って、終わりのところで会釈をするようなこともない。特に衒いのようなものもなく、映り馴れているんだろうと思う。ぞっちゃんみたいに自分の番組とかがあるのかもしれない。
「あっ、そうだ。このあたりにお店とかある? お菓子買いに行きたいんだ」
自己紹介しているやちよちゃんにさっそくぞっちゃんが話しかける。台本があるわけでもないのにいいのかと思ったんだけど、よれひーさんはカメラを回し続けて待ての指示が出ないから、まぁそれでいいんだろう。
「赤羽なら、コンビニがあるよ」
「コンビニ? って、コンビニエンスストア?」
ほんとはさっき見てるんだけど、カメラの前だからまぁサービスだ。




