7月26日(火) 16:30 一日目:ホテル赤羽
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第一〇章 未知なる土地に辿り着き、なんだかやたらと緊張している。
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7月26日(火)
16:30
一日目
ホテル赤羽
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撮影中の部屋から少し奥に進んで、私に割り当てられた番号の部屋に到着。
扉の前で、渡された鍵にくっついている大きな棒状の飾りに書いてある番号と扉の部屋番号を見比べて確認。この部屋で間違いない。私達の部屋は並びで、お一番奥がハルカちゃん、真ん中が私、一番手前がぞっちゃんだ。
考えてみればこういう宿に一人で泊まるのは初めてだ。
そもそも自分で部屋の鍵を開けるというところから珍しい体験のような気がする。もちろん、自宅なんかで鍵の開け閉めをしたことはあるけど、そういうのともなんかちょっと違う。
こ……このやり方であってるかな? 間違ってないかな? ということが俄に気になり始めた。両隣の二人はどうしてるんだろと思って見回したけど、もうすでに部屋に入っていて参考にできなかった。
二人ができたなら普通で行けるだろうと普通のやり方をしたところ、鍵は普通にするっと開いた。別に東京だからって、鍵にまで不慣れってことはなかった。
扉をくぐると入り口の照明だけが点灯していて、明るくなっているその狭い範囲に手元の鍵についた飾りの部分を差し込むスロットがある。
そのスロットに鍵の飾りを差し込むと、室内の照明が点いた。
一般の家にはない物珍しくて面白い仕組みだ。
なんというか秘密基地ごっこみたいでかなりワクワクする。試しに逆さに刺さった鍵を抜くと、電気はすぐに消える。この鍵の飾りの部分が物理スイッチになっているらしい。
無駄がなくて面白い。
けど一方で、こう……合理的かもしれないけど、安っぽい仕掛けではあるかもしれない。
室内は明らかに狭苦しい感じ。
事前の説明通り窓もなくて、なんともいえない閉塞感がある。
ここのところよく馴染んだ地下室といえば幹侍郎ちゃんの部屋だけど、あの部屋は広いからなぁ。電灯なんかの関係でこの部屋より暗いかもしれないけど、あそこは狭苦しいってことはない。
いや、それは私のサイズなら、ということだろう。
考えてみれば、あの部屋に閉塞感がないというのは私の感覚であって、本来の住人である幹侍郎ちゃんにしてみればやっぱり狭苦しいのかもしれないなぁ、と改めて思い返す。体のサイズと見比べてみるとこれぐらいの狭……。いや、幹侍郎ちゃんにとってのあの地下より、私にとってのこの部屋の方が狭いわ。
比率にすると床面積で六分の一ぐらいだ。天井方向も高い。
うーん。
……とはいえ、幹侍郎ちゃんは狭いビジネスホテルのシングルルームの六倍ぐらいの部屋から絶対に出られないのだと思うと、ちょっとどういう気持ちになるのか想像を絶する感じではある。考え始めただけで感じるこの嫌な気持ちだけで叫びだしてしまいそうだ。
なんと恐ろしい……。
やっぱり、幹侍郎ちゃんはなんとしてもあの場所から出してあげたい。
でも、こうして来てみると、東京も人が暮らす普通の場所だ。
もちろん、ところどころ私の常識とは違うところがあるから、来てみて様子を知ることができてよかったとは思う。
でも、この赤羽に幹侍郎ちゃんを連れてきたら、それはそれは目立つに決まっている。
* * *
部屋に手荷物のリュックを置いて、事前に言われた通りロビーに戻ろうと改めて廊下に出た。
ドアを出るとき、フロントで受けた注意を思い出して、入口横のスロットから鍵を取るのを忘れないよう気をつける。
部屋を出たところでロビーと反対の方、廊下の奥に女の子の気配を感じた。
背が高くないからぞっちゃんではない。ということは……。
「ハルカちゃ……じゃない!? すいません、人違いでした」




