……7月26日(火) 16:10 一日目:到着@ホテル赤羽
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第一〇章 未知なる土地に辿り着き、なんだかやたらと緊張している。
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「今日明日、赤羽に滞在します」
フロントでよれひーさんが手続きをしている間、私達はロビーの端を借りて集っている。
「ははは。よっちゃんのつもりとしては、ここに泊まるのは現地に宿泊するというのをレポートする意味もあるらしいよ。東京というと特別な場所というイメージが強いけど、ほんとにそうなのかというやつだそうです」
「ああ、なるほど……」
私がつい口を挟んでしまったことに、けんちゃんさんが答えてくれる。いい人だ。
「実際にロビーまで来てみると、東京だからって特別なところがあるわけじゃない、普通の宿って感じ」
そうか……、ぞっちゃんはなにもおかしいと思ってないのか……。私はロビーに来るまで、なにもかも勝手が違って戸惑っていたのに……。
経験上、私とぞっちゃんの感覚がズレているとき、世の中ではぞっちゃん側の感性が普通なのだ。対ぞっちゃんに限らず大抵の場合には私は異端の方だけど、対ぞっちゃんのときは特にそうだ。その場合、私は変なことを気にしている事になるし、実際にあとになって振り返ってみても私が気にかけていることは意味がないか些細なことである場合が多い。
こういう部分に恨みがあるわけではない。私の自己分析として、そうだからそうだという話である。
「赤羽だと東京でも入り口みたいな場所ですからね。でも、特別なところもちゃんとありますよ」
ぞっちゃんの感想に戻ってきたよれひーさんが答えた。
「えっ? なんですか?」
「これがね……」
ぞっちゃんと話していたよれひーさんが、人差指と親指で丸を作ってお金のマーク。
「あっ……」
「おお……」
私達もそれに合わせてガヤっぽいリアクション。
「各部屋のグレードとしてはビジネスホテルぐらいの宿らしいんですけど、聞いたらこっちの方は高級旅館という感じですね。高すぎる、ということはないですけど、大宮の宿ならもう少しお値頃なんですけどね」
「具体的なお値段とかは言えないんですか? 実際に来てみたい人の参考にもなると思うし」
「シーズンによって変動したりもあるそうなので。それに誰でも気軽にご宿泊という場所でもないですから、宿としては金額を明示するメリットがないんだそうです」
こういうどうでも良さそうなことでも、聞いてみたら事情を説明してくれるというのは、私の気質としてはとてもありがたい。
「ああ、なるほど。宿としては気軽に来てほしいわけでもないんですか」
「宿の方がそう言っていたわけではないので、そこまではなんとも。お安くはないですよ、ということだけを伝えても良いとは言われました」
「はー、なるほど」
こんなやり取りの後、鍵を渡されて割り当てられた自分の部屋に移動することになった。
間取りを聞くと、よれひーさんの言葉通り確かになにかで見たビジネスホテルぐらいの部屋だった。
地下なので窓はないそうだ。
私たちはひとりずつ別部屋。けんちゃんたちスタッフさんは男女二人づつ二人部屋だとか。
よれひーさんも一人部屋。
聞けば、ホテル赤羽は全部で十五室、二人部屋はあるけど三人部屋はないということらしい。見るからに観光用というわけでもない宿だから、設備だってバラエティーに富んでるわけではないのだろう。
じゃあ実際のホテルの部屋の紹介、けんちゃんさんの部屋に行ってみましょう、ということで撮影隊が軽く二人部屋の中を紹介しはじめた。撮影ではあるけど、私達の出番はない。
通りがけにちらっと覗いたところベッドが二個あるだけの簡素な部屋である。
「うわ、これは普通の部屋だな。よれひー、この部屋いくらなの?」
スタッフさんが自分の部屋を見てそんな事を言っている。けんちゃんさんと相部屋の川口さんだ。川口さんは主に、映像周りと通信周りの担当をしているらしい。
疑問に対してよれひーさんが耳打ちをする。
撮影隊の声を後ろに聞きながら、私は自分の部屋に向かう。
「うわ、そりゃエグいな」
「エグいなんてことないよ。東京に安心して滞在できるんだから、それを考えたら高くない」
「いやー、でもホームの大宮から車で一時間半のところだと思うとさぁ」
「そんなこと言うなよ。普段は泊まらないところなんだから、少しぐらい高くても惜しくないってことだよ」
「言われてみればそうなんだろうな……」
「ホテル側としても興味本位の客にたくさん来てほしいってわけじゃないらしいから」
「そんなこと言われても、俺達だって興味本位みたいなもんじゃん」
「それはまぁ、そうだけど……。とにかく宿代は必要な費用だし、この金額でもその価値はあるってことだよ」
「俺としてもちょっと聞いたら高いって思ったってだけで、値段に見合う価値がないとかあるとか言いたいわけじゃなかったんだけど……。まぁ、逆に考えたら値段だけなら高級ホテルだもんな。今日は眠るのが楽しみだ」
「これは経費だからね。お楽しみに」




