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諸々が千々に降下してくる夏々の日々  作者: triskaidecagon
第一〇章 未知なる土地に辿り着き、なんだかやたらと緊張している。
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7月26日(火) 16:10 一日目:到着@ホテル赤羽

諸々が千々に降下してくる夏々の日々

 第一〇章 未知なる土地に辿り着き、なんだかやたらと緊張している。

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7月26日(火)

     16:10

       一日目

  到着@ホテル赤羽

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 今の撮影のおかげでなんとなく有耶無耶になって気が紛れてきたけど、見知らぬ場所に居るというのは緊張する。

 いま、ホテル赤羽のドアの前に居るのだけど、なんだか奇妙な感覚だ。

 地下の駐車場で車を降りて目の前にある入口から部屋に入る。

 この流れで来ているのに、いま自分がいるのか『内側』なのか『外側』なのか分からないというか、この場にいるときの心構えを微妙に掴めないというか、扉に向かっているときに向こう側の予測が極端にしにくいというか、ひとつひとつ確認が必要な気がして全てにおいて判断や反応が遅れるというか。

 この『予測できないこと』というのが、いまの私の緊張の正体なんだと思う。

 そして私から見ると、私以外の人たちが特に緊張していないこと、つまり見慣れない光景に対する不慣れさをあまり気にしていないことに驚きを感じる。私が感じているこの戸惑いを誰も味わっていないのじゃないのか。もしかしたら誰も気にしてないんじゃなくて、私だけ気にしすぎなのかもしれない。というか、きっと私だけが気にし過ぎなのだろう。

 とにかくそんな感じで、地下空間に建屋があるという雰囲気でもなく、幅の狭い地下駐車場のそこらの壁にしては綺麗で、地下街の壁と言うにはあたりが薄暗い、慣れない空気を醸し出しているところに『赤羽ホテル』という看板が出ていて、看板の隣が透明ガラスの自動ドアになっている。

 そのガラスの自動ドアの向こうにはよくある風除けの小部屋があって、そのさらに向こうに行くのは暗い色の扉。不透明だから扉の向こうがどうなっているのか見ただけでは分からない。両開きの自動ドアではあるようだけど。

 扉の暗色がなんとなく透明ガラスの窓に見えてしまって、これからすごく暗い部屋に入ってゆくような気分になってしまう。

 同時に、地下駐車場の壁に張り付いている扉の向こうというのは普通なら通路になっていそうな感じもするし、風除室があるということは玄関的な広めの空間があるかもしれないという気もする。これまでの生活でやってきたほんの小さな予測がお互いに矛盾していて落ち着かない。

 こんな予想が外れてもなにも困ることはない。でも、普段は気が付かないけどたぶんいつもこういう小さい予測をしながら生活していて、その予測ができるから安心できているのかもしれない。他の例だと、例えばお菓子の味が思ってたのと違うとものすごくびっくりしたりすることはよくあるもんね。

 お店の前の駐車場は普通なら屋外だし、風除室の扉の向こうは普通は部屋。

 これぐらいの予測が外れることも日常ではいくらもあることだけど、日常から遠いこの場所ではそもそもの予測ができない場面が多すぎてストレスになっているという感じはする。

 現時点の私は撮影される対象であれば良く、実際には赤羽ホテルに入っていく集団の中のひとりでありさえすれば良いのだから、警戒が足りなければ命に関わるとかじゃない。だから気にする必要なんてないんだけど。

 そして……。

 一行の先頭が自動ドアの前に立ち、実際にそのドアが開いた。

 実際にそうなってみると、そこにはなんてことない小さなホテルのフロントがあるだけだった。当たり前のことなんだけど、なんとも拍子抜けだ。

 でも、地下駐車場(みたいな場所)の壁の中にこれがあるのかと思うと妙な感じがするし、変だという気がしているもう一方で、風除室の先にこの場所があるならまったく変じゃないという気もする。こういう混乱が、どんどん私を緊張させているわけだ。


  *   *   *


「今日明日、赤羽に滞在します」

 と、けんちゃんさんが言う。

 フロントでよれひーさんが手続きをしている間、私達はロビーの端を借りて集っている。

 もちろん撮影もしている。

「はーい。……でも、車で一時間ぐらい移動してきただけなので、大宮に戻ってもそんなに違わないという気もするけど……」

「ははは。よっちゃんのつもりとしては、ここに泊まるのは現地に宿泊するというのをレポートする意味もあるらしいよ。東京というと特別な場所というイメージが強いけど、ほんとにそうなのかというやつだそうです」

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