……7月26日(火) 15:30 一日目 :赤羽路上
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第一〇章 未知なる土地に辿り着き、なんだかやたらと緊張している。
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「レザミオちゃんって、私達?」
「それはそうだと思う。最初の四文字だし」
私の驚きにハルカちゃんが答えてくれる。
「グループの愛称も決まって、コント劇団として順調な滑り出しみたいだね」
「コント劇団じゃないよ?」
私のボヤキにぞっちゃんが回答。
どうやらぞっちゃんは、グループのアイデンティティと活動内容に結びつきがなくても気にならないタイプの人みたいだ。私は気になる。というか、レザミ・オリセがなにを目的としたグループなのかがいまだに分からない。
それどころか、グループ名が必要な理由も分からない。いや、こうして呼ばれているとグループ名が必要だということは実感として分かるな……。必要というか、無いと不便というか、有ると便利というか……。
こうしてみると、私はもしかしたら名前だけあって実態が無いことに納得がいってないんだろうか? そうかもしれないという気はするけど、それはそれとして、なんで実態が無いことが気に入らないのかが分からない。
世の中はわからないことだらけなんだけど、私ときたら世の中どころか自分のことも分からないのだなぁ……。(詠嘆)
「さーちゃん? ぼーっとしてる?」
「あっごめん。……私は私がわからないって考えてた」
「私? 一人称の?」
「そう」
「さーちゃん物知りで頭いいのに?」
「……繰り言だから忘れて」
「わかった。じゃあ忘れる。でも、悩みがあったら相談してね、お役には立てないかもだけど」
「うん、悩んではいないから大丈夫だよ」
単純な事実であって悩みというわけではないから相談はしないと思うけど、好意は嬉しい。こういうところ、ぞっちゃんは本当に良い奴だ。
「佐々也ちゃんさん、本当にすぐ考え込んじゃうんですね」
「すいません。普段はもうちょっとマシなんですけど、撮影だと喋ったりしないで静かにしていないといけない場合があるので、その隙に考え込んじゃうんだと思います」
「呼びかけた時に気づいてもらえるのであれば、こちらとしては大丈夫ですよ」
「はい。あ、そうだぞっちゃん。私に圧かけるやつ、やりすぎたら嫌なやつだって思われるんじゃない? 大丈夫?」
「私はさーちゃんに絡むのが正解だし、さーちゃんが映えるのがあの方向だから、そこは役割だって」
「私は別に映えたりしなくてもいいし……」
「私達の中ならさーちゃんが一番面白いんだから、そこは私に絡まれてほしいよ」
これだけ面白に対して高い意識があるのにお笑いグループじゃないのか、という気もするけど、ぞっちゃんが目指しているのがそういうことじゃないのは分かる。ストリーマーとしての上昇志向と言うか、知名度と言うか、そういうやつなのだろう。
それ以上に、そもそもの部分で気になるところがある。
「わたし別に面白くないけど……」
「そんなことないよ?」
ぞっちゃんのこれが純粋に褒めてくれているのだというのは本当だろう。
私自身もいくらかふざけてみて面白くなるように流れを意識する面もある。けど、半分ぐらいのことは別になんにもしてないのに面白がられてるので、複雑な気分だ。
私は普通、というか基本的に理に適った言動しかしていないと思っている。
その上で、世間一般の人々は私なんかより飛躍した言動に満ちているように見えている。
ダジャレなり突拍子のない発言が面白いのはその飛躍が面白いのだろうと思うから、理屈で言えば世の中の大多数の人達の方が私よりよっぽど面白いんじゃないかと思うのだけど、あまりそういう話にはならない。
納得いかないにせよ、ともあれ面白いと言われることが褒められているということは分かるから気を悪くしたりはしない。しないけど、納得いかないことに変わりはないので評価が高くても全く嬉しくない。これは仕方ないと思う。
「あっ、そうだ、荷物」
そんなことを考えながら二三歩進んだところで急に思い出した。
「荷物は後でまとめてロビーに運びますんで、まずはカメラと一緒に入っちゃってください」
車に戻ろうとしたところ、けんちゃんさんにそう言って止められた。
大きな方の荷物はお任せするとしても手回り品は別だと思うので、自分のリュックだけを座席から取り上げてホテルの方へ移動することにした。




