……7月26日(火) 14:00 一日目:東京行き車中
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第九章 東京は魑魅魍魎が跋扈する、いわば此の世の伏魔殿とか
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「あ、言ってましたね。川のある村だとか」
「私達の近所の川には近くに家が建ってるし、親水公園には川原にバーベキューセットと屋外用のテーブルとベンチが置いてあるんです。こっちなんていくつでもバーベキューセットが置けそうですけど、公園らしきものはなんにも無いですね」
「え? 家のそばにバーベキュー場があるの? もしかしてバーベキューし放題? フリーバーベキュー?」
「えっ? あたし、あのバーベキュー台って使ったことない」
ぞっちゃんが急にいつもの口調に戻った。
「ぞ……みーちゃん、キャラ崩壊してるよ」
「あっ、やば。……えーと、誰でも使っていいバーベキュー台だから、いつもは他のところから遊びに来たお客さんが楽しそうに使ってま〜す」
「誰でも使っていいなら、レザミ・オリセちゃんたちも使えばいいのにー。いつでもバーベキューできるなんて楽しそう。ネタにもなるし」
「ほんとだ〜。ねぇ、さーちゃんとハルル、今度バーベキューやろ?」
「三人でバーベキューをやりたいのかというと、それほどでもないというか……」
「さーちゃん、ひどい! あたしのこと好きじゃない?」
なんか両腕を胸の前に縦に置いた可愛い風のポーズを作って私の方に問いかけてくる。
正直、体格を比べるとぞっちゃんのほうがかなりでかいので、上からその姿勢で来られると「ボクシングかな?」という感じでけっこう怖い。まぁ、ぞっちゃんが殴ってくるわけないから、落ち着けば怖くはないんだけど。
「えー……。嫌いではないけど、好きかと言われると……」
「ちょちょちょ! 佐々也ちゃんちょっと待って! あ、カメラ止めてください。ちょっとちょっと佐々也ちゃん? そういう言い方はなくない?」
「冗談だって。でも、どうせやるなら三人じゃなくてみんな呼んでやろうよ」
「あー、そういうのね。良かったー。あのね、三人でって言ったのは、反省会番組にできるかなーと思ったからなんだよ。よれひーさんの番組のあとに、自分で関連の番組作ったら、再生稼げそうだし」
へっへっへと、ぞっちゃんが笑う。腹黒キャラなんだろうか? なんか違くない?
「なるほど。そういうことなら協力するよ。なんかこう、夕方に近所の河原に集まって三人でひっそりお肉を焼いて紙皿で侘びしく食べるのかと思った」
「お昼にやろう。あとは、フライパン使って焼きそば作ろう。お皿もアルミにしよう」
「あれ? 全部否定してくる感じ? まあ、私はなんでも良いんだけど……」
「さーちゃんに言われて絵面が思い浮かんだよ。確かにちょっと淋しい感じだった」
「二人とも、その話は後でやろう。録画を進めてください」
私とぞっちゃんが話してると、ハルカちゃんが制止してきた。
「まあ、カメラは止めてないけど、続けても良い?」
「すみません。進めてください」
「お気遣いありがとう。でも、編集もあるし、面白いから使うかもしれないし、あんまり気にしないで平気ですよ。気にして欲しい時はこちらから言いますから」
「えっ、使うんですか? でも私、キャラ崩壊してるし……」
「別に守るほどのキャラでもないからいいじゃん。ときどき崩壊したほうが腹黒キャラで行けるって自分でも言ってたし、普段のぞっちゃんの番組だって普通なんだし」
「えー? よくわかんな〜い。みーちゃんは〜、いつでもこうだけど〜?」
「このタイミングで戻るんだね……」
実際、ぞっちゃんはいつでも人当たり良く、相手とか場面に合わせて話を変えていく人好きのするタイプだ。だから場面によってキャラが違うといえば違うし、そういう柔軟なところがぞっちゃんの偉いところだ。
そういう意味では、ふにゃふにゃ掴みどころがない感じはとてもぞっちゃんらしいのかも。私宛のキャラじゃないってだけだ。じゃあ誰向けかといえば、番組を見るであろう人なんだけど、見てる人はぞっちゃんがこんな感じでいいんだろうか……。
幹侍郎ちゃん含めていろんな人が見るんだろうし、マンガ的で分かりやすいちょっとキャラ崩壊気味ぐらいな方が面白いのかな。こういうの、私には絶対にできない芸当だ。
上手く番組に合わせて喋るぞっちゃんを見ながら、私はそんなことをつらつらと考えていた。




