……7月26日(火) 14:00 一日目:東京行き車中
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第九章 東京は魑魅魍魎が跋扈する、いわば此の世の伏魔殿とか
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「いいのいいの。撮れ高になるから。でも、今日の番組に使えなかったら、またいつか使う感じでもいい? 未収録シーン集、みたいなやつとか」
「私はいいですけど、さーちゃんは平気?」
私は普通通りなんだから、恥ずかしいとしたら演技過剰なぞっちゃんの方じゃないかと思うんだけど。
「ありがとうございます。じゃあ気を取り直して、東京クイズ第二問! じゃじゃじゃん! 東京はどういうところでしょうか」
「またざっくりな……」
「はい。TOXがよく落ちてきます」
私がぼやいてる間に、いち早くハルカちゃんが答える。ハルカちゃんはこの地球上の出身ではないので一般常識には弱い。回答順が後になると弱い部分が露呈するのを嫌っているんだと思う。フォローのために、このハルカちゃんの用心は覚えておこう。
「合ってますが、惜しい。それだけじゃありません。一ポイント」
「ポイント制になったのか……」
「はい! ジャングルで〜す!」
「自然の木はたくさん生えてますが、別にジャングルじゃありません。間違い! じゃあ、佐々也ちゃんさんお願いします」
「東京は魑魅魍魎が跋扈するいわば此の世の伏魔殿とか、という噂を聞きますが……」
「え? さーちゃんいまなんて言った? 日本語だった?」
「日本語だよ」
よれひーさんが私にもうひと押ししてくる。
「私もその言い方を聞いたことありますけどね。伝わりにくいので、もうちょっと自分の言葉でお願いします」
「でも、調べちゃったからなぁ……。えと、東京は……世界中で最初にTOXが落ちてきた場所で、最初期の襲撃で隕石型TOXによって中心部がクレーター化しました。その後も度々TOXに襲われることで、危険地域というより一種の紛争地域として地方行政から外れることとなって、現在まで放棄された土地であり続けています。そういった無法地帯である一方、発現した能力を上手く制御できないミュータント人類が遺棄されたりであるとか、犯罪者が逃げ込んだりという形で、少なからぬ住民が居ます。実際にどのような人達が住んでいて、どのような暮らしをしているのかはあまり知られていません」
「……すごいですね。正解! 二重丸! 佐々也ちゃんさん、昨日はお友達のユカちゃんが賢いって言ってましたけど、ホントだったんですね」
「いや、これはたまたま……。東京に来る事になったから、調べておいたので」
「どうですかうちのさーちゃんは。私の友達です、友達」
「おっ、みーちゃん、猛烈アピールですね」
ぞっちゃんが横から抱きついてくる。
これが腹黒アピールなんだろう。上手くやってると思う。
「じゃあ、第二問は佐々也ちゃんさんの活躍でレザミ・オリセさんチームの勝利ということで」
「チーム戦だったのか……」
こっそりぼそっとツッコミをするけど、よれひーさんはそのまま話を進める。
「まぁでも、佐々也ちゃんさんの答えだと危険地帯みたいな感じですが、要するに人が住んでる場所ではあるので、別にただちに命を失うほど危険ということではないです。ちょっと色々気をつける必要があるというだけで……」
「その言い方だと、もしかしてかなり詳しいんですか?」
「僕ですか? 近くに住んでますから、日本人の平均よりはかなり詳しいはずですよ」
「……」
理由を述べてから状況を述べているので、おそらく相互に関係があるんだろう。それがどれぐらい当たり前なのか、私には判断がつかない。私は地元でも麓の街には詳しくない方だけど、それでも麓の街のショッピングモールについては人類の平均よりかなり詳しいはずだし、色々と……ではないけど伝手もある。まぁ伝手と言っても、近所のお姉さんが働いてるってだけで、別に買い物中に便宜を図ってもらったりはできないんだけど、どうしてもという時に職員用のトイレを借りたりすることぐらいはできるんじゃないかという気はする。迷惑だからお願いしたことは無いし、そもそもトイレもそんなに混んでないんだけど。
それぐらいの話だと思えばいいのか、それとも東京は特殊だから麓の街のモールと比べるのには適さないのか、とっさに判断がつかないので相槌を打ちはぐってしまった。
「えー、そうなんですかー? 東京の人ってすごーい」
これはぞっちゃん。
そうか、そっちで良かったか。




