7月25日(月) 22:00 大宮のゲストルーム
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第九章 東京は魑魅魍魎が跋扈する、いわば此の世の伏魔殿とか
━━━━━━━━━━
7月25日(月)
22:00
大宮のゲストルーム
━━━━━━━━━━
夜寝る時間。
寝室は二つあるから、二人づつに別れて就寝ということになった。ここに泊まるのは今日だけなので、長くその組分けで暮らすとかでなく今日だけ。
こういう時、四人でやってきた折瀬の女子の組分けはだいたい決まっていて、実用重視の時は窓ちゃんユカちゃんとぞっちゃん私、遊び気分の時は窓ちゃんと私、ユカちゃんぞっちゃんという感じだった。
今は長年の習慣と違う状況。
でも遊びに来てるからぞっちゃんユカちゃんの組と私とハルカちゃんの組というのが当たり前で思いつく組分けだ。でも今日はユカちゃんに話があるので、ユカちゃんと一緒の部屋で寝たいと言ったら、ユカちゃんは不気味がりつつもなんかちょっと嬉しそうだった。こういうところ、ユカちゃんは本当にツンデレのお母さんという感じである。
一緒に寝るって言っても、ベッドは二つあるから同じ部屋ってだけのことなんだけど。
「ユカちゃん、今日は送ってくれてありがとうね」
「佐々也がお礼を言うなんて、珍しく殊勝な態度じゃない。また何か頼み事でもあるんじゃないの?」
普段から礼ぐらい言ってるわ失礼なやつだな、と思いつつ、胸の内を見透かされた感が無くも無く。
お願いというか相談事はあるんだよね。
「いや、ほんとにありがたいと思ってるよ。でさ、頼み事って言うんじゃないんだけどさ、相談というか聞きたいことがあって」
「はいはい。まあそうよね」
ため息をつきつつなんか嬉しそうというユカちゃんは、本当にツンデレお母さんである。エプロンで手の水気を拭ってる幻影が見えた気さえする。
「その、幹侍郎ちゃんのことなんだけどさ……。良い場所があったら、東京に連れてきて外に出してあげたいんだよ」
「は? 外に出したらバレ……。ああ、東京ならその場所があるかもしれないって思ってるのか……」
「そうだよ。今回のこれもストリーム番組に出たかったんじゃなくて、東京でそういう場所を探したかったの。まさか番組に出ることになるとは……」
「今日の打ち合わせの時もそんなこと言ってたけど、ぞにくっついて東京探検に来るなら、そりゃ番組に出演してくれって話になるでしょ」
「いま考えたらホントそうなんだけど、ぞっちゃんにお願いしたときはそんなこと全く考えてなかったんだよね……。一緒に旅行に行くだけのつもりだった。でもさ、それにしても、衣装まで用意してるなら事前に教えてくれても良かったと思わない?」
おっと、つい恨み言が。
別に恨んではないんだけど、すごくびっくりはしたんだよ。
「みんなは衣装があることだけを秘密にしてたらしいけどね。番組に出るつもりがないなんて考えてもなかったんじゃないの?」
「そうだろうね……。まぁ、それはもういいんだ。覚悟も決まってきたよ。基本的には普通にしてれば良いみたいだし、ぞっちゃんも頼りになるから。それより幹侍郎ちゃんのことなんだけどさ、ユカちゃんって重いもの動かせるんだよね?」
「は? 動かせないけど? 特別重いものを動かせるとしたら変身で筋力が上がる窓よね。でも、窓でも幹侍郎くんは持てないと思うけど」
「あ、いや、そういうんじゃなくて、ユカちゃんの能力の……」
「はいはい。わかってるって。ただ、言った通り、私の能力は重いものを運べるわけじゃない。どちらかというと、仕舞うところを広くできるという感じなのよ。重いものは重い」
「それそれ。……あれ? 重さは変わらないの?」
「重さは半分にできる」




