……7月25日(月) 15:30 世界的大都会大宮市街
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第九章 東京は魑魅魍魎が跋扈する、いわば此の世の伏魔殿とか
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今日はこのあともう自由時間。
せっかく大きい街に来たのだから、明日の朝には帰るユカちゃんを入れて四人で連れ立って遊びに出かけることになった。大宮はこのTOXの時代では規格外の、世界的に見ても大きな街だ。その理由は、隣にこれまた世界的に見ても格別に集中攻撃され続けている東京があるからだと言われている。
街が少しぐらい大きくなっても大宮にはTOXの『警告』は来ないんだそうな。警告のような小さい襲撃はどうやら東京に吸い込まれているのではないか、と言われている。
ところがそんな大宮でも、過去には『ある程度』の限度を超えたこともあって、そういうときには『警告』の段階を飛び越えて、いきなり次の『強襲』が来てしまったという。大宮では『警告』がないせいで、ギリギリのほどほどを見極めにくいんだとか。
そんなわけで、大宮ならば限度を超えていくら大きくなってもいいということはないのだけど、多少超えてもなんともないということで、結果としていまでは規格外に大きな街になっている。
こういう話を聞くと、大宮の人は危なっかしい気分で暮らしてるんじゃないかなと思ったんだけど、東京の封じ込めのために大きな防衛隊もあるし、宇宙での観測が発達して襲撃の数日前にはどの規模の襲撃になるかわかっているので、大宮に暮らしているからといっていつTOXに襲われるかわからないという気分ではないそうだ。
ただ、あまり街が大きくなりすぎると『強襲』が来て壊滅してしまうという危機感はあるらしいのだけど。
とにかく、なんやかんや物騒な感じというのはあるけど、一日二日滞在するだけなら大宮は大きくて面白い街だというのは確かだ。ユカちゃんもぞっちゃんもハルカちゃんもそれを楽しみにしていたらしい。
遊びに行くとは言っても、洋服とかアクセサリーとか雑貨とかを見て回る感じ。私なんかは、それなら下の町のモールでもできるんだけどなとは思うものの、一方で大きな街というだけで私には珍しいので、つきあって歩き回るだけでも楽しい。
しかしまあ、ど派手な美少女の二人と、あと一人のまあまあぐらいの美少女と並んで歩くと、ときどき自分がペットの犬になったような気持ちにはなる。なんというか、Tシャツとペインターパンツみたいないつも通りの適当な服で出歩いてごめんね。それでも私はこんな格好しかできないんですよ。
そんな感じで服屋とかアクセサリー屋とかにつきあわされつつ、長くなりそうなら本屋とか電気屋とかに避難しながら(普段、窓ちゃんがいるとこれができない。私が離れるとすごく悲しそうになるので)、ど派手な美少女ではない方の美少女――つまりユカちゃん――に主に付き合って遊び歩いた。だってあの二人どこでもやたらに話しかけられるし、服屋だったりすると店員に話しかけられて、愛想もいいから絶対買わないって言いながら試着したりするんですよ。世間からの無差別な愛が重すぎて耐えられない。
その点、ユカちゃんと私の二人だけで居るならそこまでのことはない。
他にはカフェでジュースを飲んだりもした。
さすがにジュースには苦手意識を感じずに済んだのは良かった。ジュースも美味しかった。
遊び回ってから帰ると、よれひーさんが言ってた通り、切り貼りと簡単なメモを書き込んで粗く編集した今日の収録分が上がっていた。今日やった一時間強の収録が三十分にまとめられている。私の発言にピー音が入ったり、繰り返しの部分をカットされたり、部分的にツッコミのナレーションと字幕がついていたり、粗くと言ってた割に手の込んだものになっていて、確認のために見ているだけでも番組が面白いことがわかった。
それを見てぞっちゃんは感動していた。
私はちょっと自分が馬鹿みたいすぎて悲しくなってしまったが、これはもう仕方ない。今日の自分がちょっとアレだった自覚はある。
ユカちゃんが映ったシーンも使われていたけど、顔にはボカシがかかっていた。
ハルカちゃんはいつの間に行動したのか、その編集の動画の歌の場面に独自のエフェクトを掛けてよれひーさんに差し替えをお願いしている。
その後、二時間ぐらいで完成版ができて動画が配信された。
ハルカちゃんがお願いした差し替えは採用になっていた。
その日の番組は面白くて好評だったらしい。
評判を聞くと、ぞっちゃんは「リーダー」「レザミ・オリセの回し担当」、ハルカちゃんは「ビジュアル担当」「ドルオタのお友達」、私は「レザミ・オリセのカオス担当」とか「自由の国から来た」「おもしろの勝利」とか言われていた。
褒められている気はしないけど、直接の悪口でもないからまぁそんなもんか、という気はする。




