7月25日(月) 15:30 世界的大都会大宮市街
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第九章 東京は魑魅魍魎が跋扈する、いわば此の世の伏魔殿とか
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7月25日(月)
15:30
世界的大都会大宮市街
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宿として市内のマンションの一室を紹介してもらっている。
ぞっちゃんが言っていたゲストハウスというのがこの部屋のことで、ゲストを招待することが多いからよれひーさんの自費で常設のものを用意しているんだって。大宮には午前中にはすでに到着していて、その時に部屋にも通してもらい荷物もおかせてもらっているけど、収録後にもいちおうということでアシスタントのけんちゃんさんにスタジオから道案内してもらった。ぞっちゃんによると、けんちゃんさんはよれひーさんの番組でおなじみの人らしい。
番組に出ないのにどうして撮影スタジオに居たのかということを聞いたら、アシスタントとしてよれひーさんの手伝いをするのがけんちゃんさんの基本的な役割で、番組に出演するのは穴埋めとして必要な時にその手伝いの一環としてやっているのだとか。歩合と日当の両方でお金はもらってるけど、どちらかといえば友達の仕事を手伝ってる感覚なんだって。そんな話を聞きながら、ぞっちゃんがとても感心している。
「やっぱり、一人では難しいんですか?」
「よしおが言うには忙しすぎて手が回らないけど具体的にどんな作業があるのかその時になるまでわからないし、やって欲しいことをひとつづつ伝えるのも難しいから、気心の知れた友達に手伝ってもらうのがありがたいらしいよ。実際、いまだってよしおは編集してるけど道案内が必要なわけだし」
「あー、本当ですねぇ。わざわざ案内してもらっちゃってありがとうございます。でも、じゃあ、頑張れば一人でなんでもできるのかなぁ?」
「よしおはあんまり苦手がないタイプだからなんでも自分でやってるけど、それでもスタジオは借りてるからメンテには他の人の手が入ってるし、このゲストルームも業者にメンテナンスを頼んでるよ。だからまぁ、手分けをするのも悪くないんじゃないのかな?」
「いまの私は役割分担でお手伝いの人に仕事を割り振れるほど、なにをしたら良いのかがわかってないんです。アシスタントって聞いて、いつもどういうことしてるんだろうって思ってて……」
「なんでも、というか、アシスタントって本人でもできるような細々したいろんなことを代わりにやる感じだよ。ゲストの人に忘れ物を届けたりとか、ご飯の予約したりとか、専門家じゃなくてもできそうなことならなんでも。それに例えば俺でも字幕を作ったりもするよ。文字の形を決めて画面に出すのはよしおにこだわりがあるらしいけど、声を聞いて字を打つみたいなこととかね」
「なるほど、細々した仕事はいくらでもありますもんね」
「そうなんだよ。人を招いたりすると特にね。手が回らない時にやらなくていい、なんてわけでもないし」
「なるほどなー。なにが必要か、気がついてやらなきゃいけないですもんね。大変な役割だ」
「そう言ってもらえると嬉しいよ。でも雑用と言えば雑用だし、まぁ諸事雑務なんでもって感じだね。だから必要があったら番組にも出るし」
「よく出てますもんね」
移動中、ぞっちゃんはけんちゃんさんと四方山話が弾んでいた。
ぞっちゃんはいつだってこんな感じだ。愛想が良くて、色んな人とよく話す。
私は聞いているだけ。私だって話を聞いてへぇと思わないわけじゃないんだけど、へぇと思ったらその先は会話が続かなくなっちゃう。
部屋に到着して、はいここだよ、とけんちゃんさんは扉を開けてから鍵をぞっちゃんに渡していた。明日の朝の集合時間を説明して、さっと帰っていった。
ダイニングテーブルの上に近所のコンビニや飲食店を紹介した手製の冊子が置いてある。
夕食や朝食は、自力で調達、ということらしい。
部屋はきれいで回線のつながりも良いけど、予定では明日にも東京に出発。居心地が良くても、居着いたりはできない。
今日はこのあともう自由時間。
せっかく大きい街に来たのだから、明日の朝には帰るユカちゃんを入れて四人で連れ立って遊びに出かけることになった。大宮はこのTOXの時代では規格外の、世界的に見ても大きな街だ。その理由は、隣にこれまた世界的に見ても格別に集中攻撃され続けている東京があるからだと言われている。




