……7月25日(月) 15:00 大都会大宮
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第九章 東京は魑魅魍魎が跋扈する、いわば此の世の伏魔殿とか
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「ちょっと忘れてるけどできるよ。……もしかしてこれ、カオスが加速していく感じ?」
そう言いながらもぞっちゃんはハルカちゃんにつきあって移動していく。
「自前の音源がある? でも、権利とか大丈夫なのかな……」
「五千年前の曲だから権利は大丈夫」
「五千年!? それってもしかしたら太陽系時代? 確かに権利は大丈夫そうだな。でも、思ってたのと違うというか、古典芸能の再現みたいなやつですかね?」
それは話し始めると長くなるやつ……、と思ったけど、それはさておいてハルカちゃんとぞっちゃんは歌って踊り始めた。まぁでもこうして見ると、伝統芸能というより普通のアイドルの歌と踊りみたいなものとあんまり変わらないと思う。
……こうして考えると、私達の世界は五千年間、同じ種類の芸能が存続しているのだね。まぁ、若い娘が歌い踊るって考えたら、それこそ神話の時代から一番偉い神様だって気になって岩戸の扉を開けちゃうぐらい伝統的な娯楽なのかもしれないけど。
歌い終わってから、ハルカちゃんの説明ターン。
歌の来歴なんかの説明はけっこう長くやっていたので、ボリューム的にもきっとよれひーさんには満足してもらえたものと思う。
* * *
「はい、本日はここまで。レザミ・オリセの皆さん、可愛くて面白いですね。明日からは東京探検です。動画と、時々はタイミングを見てゲリラ的に生配信なんかもやっちゃいます。生配信の告知は番組チャンネルの更新報告と、各種ソーシャルメッセージツールでも行いますので、チャンネルのチェックとかソーシャルメッセージのアプライをお願いしまーす。じゃあね、さよれいひー!」
というよれひーさんの恒例の締めの挨拶があって、収録は終了。
「よれひーさん、あの……、なんかすいませんでした。進行がめちゃくちゃになっちゃって」
「いやいや、こちらこそありがとうだよ。佐々也ちゃんさん面白いね」
「はい。さーちゃんは面白くて、素直で対応力もあるから,、ちょっとした引掛けのつもりだったんですけど、まさかあんなに進行が乱れるなんて……」
よれひーさんと話してるのはぞっちゃん。
私は一息ついてたけど、自分の名前が聞こえてきたからさり気なくそっちに近づいてい
く。
「今日はみんなの自己紹介みたいな意味が強かったから、そんなに進行大事でもないからほんとに大丈夫だよ。進行大切なときは、そう伝えますから」
「さーちゃんにもそう伝えておきます」
「ううん。佐々也ちゃんさんにはあんまり遠慮して欲しくないな。ストリーマーっぽくない反応の方がいいから。でも、生配信なんかで時間が押してる場合なんかには歯止めがあった方がいい気はするけど」
「だってさ、さーちゃん」
横で私が聞いていたことに気がついたらしくて、ぞっちゃんが話を振ってくる。
「なんかごめんね、ぞっちゃん。代わりに謝ってもらっちゃったみたいで」
「私もいたずらしたからおあいこだよ」
「その……、良くないところがあったら言ってください。私はストリーム番組とかもあんまり見る方じゃないから、当たり前のことを多分知らないので……」
殊勝な雰囲気になるように気をつけながら説明する。
申し訳ない気持ちであるのは本当なのだけど、理由があって対処の居ることだろうから説明も必要だろう。でも説明しようと頑張ると、申し訳ないと思っているようには見えないらしいので、そのバランスには気をつけないといけない。
私の言葉によれひーさんは気を悪くした様子はない。正解だったんだろう。
「そういうところが良いんだから、あまり気を使わないでください。わざとめちゃくちゃをして面白くしようとするとバレてしまうんだけど、佐々也ちゃんさんはせっかくそうではないんだから、そのままの方が望ましいんですよ」
「それだと”これ”をしてもお手数になるのではないかと思うので……。それに、なんだかんだでだんだん覚えてしまうと思うし」
私も真似をしてちょきちょき。
「必要な時にはそう言いますから大丈夫。そうだな、今日の録画はすぐ編集して三時間後ぐらいには粗編版になりますので、それを見てみてください。録画分は今日中に出してしまいたいので」
「今日中! あ、よれひーさんはそうなんですよね。知ってたはずなのに、改めて聞くと驚いちゃう」
ぞっちゃんがびっくりしている。
「じゃあこれから編集しますので、僕はこれで」
「よれひーさん! 編集を見学させてもらえませんか?」
去り際にぞっちゃんが食らいついていく。貪欲だなぁ。
「今日はちょっと、いつもと違う作業になりそうだから、また今度にしてください。そうだな、探検の現地録画の日次の粗編集のときとかに機会を設けますから」
「はい! ありがとうございます」




