……回想:7月18日(月)〜7月24日(日)
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第九章 東京は魑魅魍魎が跋扈する、いわば此の世の伏魔殿とか
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「あのスクーターじゃ荷物運べないでしょ?」
「……まぁ、なんか考えてみるよ」
スクーターじゃハルカちゃんも運べないよな。
……ユカちゃんに頼んでみよう。運転できるから。
「あとは…‥…。そういえば、旅行に行くときって防衛隊に届けが必要なんだっけ?」
「うん、要るよ。私はもう出してるけど……」
「防衛隊に言えばいいの?」
「言うっていうか、書類ね、書類」
「うわー面倒だなぁ」
「そうかな? 五分もあれば書き終わると思うけど」
「それを心の支えにして頑張ることにするよ……」
とりあえず防衛隊のことだし、書類のことは……ユカちゃんを頼ろう。
ん? あれ? ハルカちゃんも書類が要るのか。ハルカちゃん。国内法的にどうなってるんだろう……。まぁ、ハルカちゃんのことは防衛隊の専門家であるユカちゃんに相談してみるかな。
「防衛隊に申請って、佐々也もなにかやらかしたの?」
と、そんな話をしているところに呑気にゴジが聞いてきた。
思わず「マチェーテでやらかしたのはお前だろ」と言いそうになったけど、シャレにならないやらかしなので言えないというか、ここで言うと公共テレプレに乗っちゃってどんな噂に発展するかわからない感じがあるのでやめておく。
窓ちゃんも微妙にきまずそうにしている。
「ん? ああ、私とハルカちゃんがぞっちゃんについて東京に行くんだよ」
「なにそれ!? 初耳だけど!」
ゴジが驚いたように聞き返してきた。
「言ってなかったっけ?」
「うん。はじめて聞いた」
「私もはじめて聞いた。……行くけど」
ハルカちゃんがこっそりそんな事を言っている。
あれ、言ってなかったっけ?
「でもなんで急に東京になんて……」
「それは、み……」
幹侍郎ちゃんが外に出られる場所を探せないかと思って、と、ここでは言えないよな。
「み?」
「言い間違い。面白そうだから行ってみたいだけだよ。ゴジも行く?」
「僕は防衛隊の研修があるから行けないよ。知ってるだろ」
「あー、そうね。まぁ、誘っといてアレだけど、私も連れてってもらう感じだから、他人を誘える立場なわけじゃないんだけどさ」
「なんだよそれ。いいよ別に、それより東京って危ないんじゃないの? 警察も防衛隊も居ないんでしょ? というか、そもそも入れるの?」
「細かい話はわかんないけど、まぁ、行ってみたいんだ」
「そっか……」
「いいなぁ、東京かぁ! 俺も行ってみたかったなぁ。お土産に期待してるよ」
これはたま。
「お土産……。なんてあるの?」
私も知らないので、ぞっちゃんに聞いてみる。
「知らないけど、無いと思う……」
「そうだよね。そりゃそうだ」
* * *
放課後になってぞっちゃんたちは麓の街に行ってしまったので、私はユカちゃんにお願いして連れ立って帰ることにする。
まず旅行の書類のことを聞く。窓口でもなんでもないんだからそんなこと知らない、というすげない態度だったけど、書類をおいてある場所とか窓口の行き方とか受付時間とかそういう基本的なことは普通に知ってたので教えてくれた。
それから、東京への移動について、車で送ってくれないかと頼んだ。「は? なんであたしが!」みたいなことを最初に言われたけど、結局は送ってくれることになった。ありがとうほんとに。
ユカちゃんが言うには、「まぁ、あんたにはなんだかんだ世話になってるからね」ということだった。そうそう、なんだかんだ世話してるからね。
え!?
お世話なんてしてるか?
私が?
ユカちゃんを?
は?!
逆なら、まぁ、私にはそんな自覚はないんだけど、自覚がないだけでなにかとお世話になってるに違いないだろうとは思うんだけど……。
私がユカちゃんの世話を?
してるか!?
「私がユカちゃんの世話を!?」
頭の中で思ってるだけのつもりだったんだけど、あまりに意外なせいでつい口から出てしまっていた。それを聞いてユカちゃんはため息をついてしまった。参考までにどんなところなのか聞いてみたけど、「かけた恩を数えるようなみっともないことしないの」と怒られた。
恩?
マジでか!?
恩なんて感じているのか?
いやまぁ、口が悪いだけで義理堅い性格ではあるんだけど、恩を感じているということは勘違いではなく私がしてる世話というやつの実態があるということだ。
うーん。心当たりがない。
とりあえず、ここまでの話でぞっちゃんの知らせで発生した当面の懸案事項に目星はついたような気はする。話も早かった。
しかし、恩ねぇ……。
これはユカちゃんがなにかをどう思っているかという話であって、推論でたどり着けるのは予想まで、考えても結論は出ないやつだからあんまり考え込んでみても仕方ないか。
用事が終わったから、とりあえず幹侍郎ちゃんに会いに行こう。
* * *
幹侍郎ちゃんに会いに行く前に、ゴジにはダイレクトメッセを送っておく。
東京に行きたいのは幹侍郎ちゃんが空を見る場所を探すためだよ。見つかるかどうかわからないから、幹侍郎ちゃんには言わないで、と。
護治郎からの返事は、謎生物が頷いている絵と続けて同じ謎生物が手を合わせて頭を下げてる絵。わかった、ありがとう、という意味だろう。
ユカちゃんとの相談は早く終わったから、いつもの二十分遅れぐらいで幹侍郎ちゃんの部屋に来れた。ゴジと幹侍郎ちゃんはもう授業を始めている。




