……6月21日(火) 13:25
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第一章 宙の光に星は無し
――――――――――― ――――――――――― ―――――――――――
噂には聞いたことがあるけど、転校生ってやつが本当に存在するのに驚いた。
はい、と手を上げてぞっちゃんが転校生に質問をした。
「ハルカさんは、名字ですか、名前ですか?」
さすがぞっちゃん。愛嬌の化身。
「ハルカは名前ですカタカナでハルカ。名字はアマミヤ。漢字で天使の天に宮城県の宮です」
「アマミヤハルカ? なんか、可愛い名前だね」
確かに可愛い。
というか芸名的でわざとらしい名前だけど、作ったような美形なのでそんな名前もよく似合う。
「本日より、急遽このクラスに入ることになった。みんな、仲良くしてあげてほしい。天宮、細かい打ち合わせはまた後でな。いまは、質問してきた枝松の隣に座って、みんなと一緒に授業を受けてくれ。枝松は天宮が困ってたら助けてあげてくれ」
「はーい。ハルカちゃん、隣に座ろー」
ぞっちゃんに呼ばれて、天宮さんは笑顔を湛えたままぞっちゃんの隣の席に座った。
私は何気なく天宮さんの動きを目で追っていたのだけど、同じ方向にさっきまで話してたゴジの席があるので視界にゴジの様子が目に入る。するとなぜか、ゴジが妙に慌てた様子で私に手真似を送っていた。
携帯端末でページ送りをするようなジェスチャーなんだけど……?
「???」
どうも、私にそれをやれと言っているようなんだけど……。何をめくれと?
|: ゴジ :|さっきの顔写真||
私が要領を得ない顔をしていると、個人用の携端宛にダイレクトメッセが送られてきた。
さっきの顔写真? ゴジと確認していた写真だろうか。
フィギュアの美少女の写真をなんでいま?
そもそも先生がいるときに個人携端を触るのは、私は嫌なんだよなぁ……。なんていうのか私は何事につけあんまり要領が良くなくて、たぶんこっそり見ようとしても先生に見つかっちゃう。別にその程度のことで怒られたりはしないんだけど、話を聞かないで携端いじってるなんて先生には失礼だし……。
まぁ、メッセージは確認したんだし、ゴジもなんかただならぬ雰囲気だし、ここは見ておいたほうが筋が通る気はする。仕方ないから、いちおう確認しようか。やむなし。
と、さっきゴジと見ていたときから起動したままだった画像解析アプリの作業内容を一時保存して履歴閲覧機能からさっきの顔写真を表示する。
と、さっきゴジと見ていたときから起動したままだった写真解析アプリに視線を落とすと「歩いて立ち去った」という解析結果と青ネオン強調で足跡が表示されていた。
立ち去る? 誰が?
まあいいか、今はそれどころではない。
この短い瞬間に考えてなにか分かるわけもないので、その解析結果を保存して履歴閲覧機能からさっきの顔写真を表示する。
!!!
めちゃめちゃ驚いた。
アプリの表示されていたのは、白目になった天宮さんの顔だった。
なんでこの顔写真の天宮さんは金属肌で白目なの? いや違うか、この写真は白目の天宮さんじゃなくて、近所で見つけた等身大フィギュアの顔をアプリで解析した予測画像だ。
ああ! 手近で見たことのある顔だと思ったのはこれだったか!
なるほど。
いやいやいや、ちょちょちょ、ちょっと待て!
「なるほど。」じゃないわ! なにも納得できない!
ちらっとゴジの方を見ると、頷いてから天宮さんの方に視線を向けるジェスチャー。それにもう一度頷き返す。
いやー、後で聞いてみるかねこりゃ、と思ったら、ゴジはいま聞くつもりらしく先生の動きを見に入った。先生は今、テレプレで下の町の子達に転入生の説明をしている。「ほら、授業はじめなきゃ」と言って今にも切り上げそう。
と思ったら、手元の携端に着信警告の振動があってメッセージが入った。動きを見るとゴジの方にも同じメッセージが入ったっぽい。
『|後で説明するから|【ハルカ】』