回想:7月18日(月)〜7月24日(日)
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第九章 東京は魑魅魍魎が跋扈する、いわば此の世の伏魔殿とか
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「あのスクーターじゃ荷物運べないでしょ?」
スクーターじゃハルカちゃんも運べないよな。
……ユカちゃんに頼んでみよう。運転できるから。
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7月25日(月)
14:42
佐々也幽体離脱中
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なぜこんなことになったのか。
思い返してみると色々と心当たりがある。
東京に行きたいと言い出したのは確かに私だ。
なんの時だったか、ちょっと思いついたので東京探検に行くぞっちゃんに、同行できないかと頼んでみたのだ。
あれはいつだっけ?
そうだ、ロケットの番組のチェックを頼まれたときだった。
動画のチェックってなにすればいいかわからんという話をしてた時に思いついて、その場で同行できないか頼んだんだった。
同行できる、という返事をもらったのが翌週の登校日、対面で聞いた記憶がある。
――ハルカちゃん、放課後、旅行の服買いに行こ〜?
――窓ちゃん。顔色を見ると気分転換したほうが良いみたいだから一緒に行こ?
――佐々也ちゃんはダメ。
――平気へ〜き、すぐに分かるから。
このとき、私に秘密にしてたのがこの衣裳か……。
たしかにすぐに分かった。
つまり、気恥ずかしいなりに着やすい服にしてくれたのは窓ちゃんのおかげなんだろう。謹慎だと言っている窓ちゃんを強引に連れて行ったことも、生真面目な窓ちゃんが何度もぞっちゃんに付き合っていたのも、こうして振り返ると辻褄が合う……。
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回想:7月18日(月)
〜7月24日(日)
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登校日といえば、窓ちゃんが神社で盗んだ大きな刀でTOXを一人で全滅させたというのを始めとした虚実入り交じった噂の絶えなかった頃だ。そこに窓ちゃんが謹慎から帰ってきた。
ぞっちゃんから東京行きの続報を聞いたのは、その登校日だった。
お昼休み、ぞっちゃんが嬉しそうな顔で話しかけてきたのだ。
「そうだ、佐々也ちゃん。例の話、OKだってさ」
「あ、ほんとに? それは嬉しいな」
例の話、つまりぞっちゃんがストリーム番組の視聴者参加みたいな形で東京探検に行くという話。そこに私がついていって良いかどうかを先方に確認してもらっていたのだ。
改めて日程を聞くと、夏休みに入って週明けの月曜日から二週間だそうな。
二週間!?
具体的に言うと、八月八日頃までか。それは半月なのでは? 旅行というより移住では?
「お、思っていたより長いね……」
「そうなの? 知ってるかと思ってた」
「いや、単に東京に興味があったからで、行く先しか知らなかった」
「まぁでも、みんな一緒だから楽しいと思うよ」
「そうだね……」
私としては楽しいかどうかはどうでも良くて、いつか幹侍郎ちゃんを逃がすための下見というか、そういうやつだから……。現地に行ったところで、経験の乏しい高校生の私なんかにそんな当たりがつけられるのかどうかもよくわからないけど、なんにも知らないとそんな見当も絶対つけられないはずだから、そのへんの空気を掴みたいというだけでも行きたいとは思っているのだ。
だから、そう考えれば、長く居られるのは願ったり叶ったりなのか。
「そうなると宿とかご飯の手配をしないといけないのか……」
「その辺はまだ聞いてないけど、たぶん私と同じで大丈夫だと思うよ」
「どんな感じ?」
「初日はゲストルームを用意してくれるらしいんだ。それ以降は探検だから」
「そうか、探検スケジュール次第なのか……。あと、いくらぐらいになるかわかる?」
「佐々也ちゃんはゼロだよ。先方持ち。そもそも、探検中はお金払えば泊まれるようなところに泊まるとは限らないわけだし。そんなに過酷な探検じゃないとは聞いてるけど、細かい話は私も聞いてなくて」
「そっか……。タダ乗りしちゃって悪かったな。あと、行き帰りは? その、移動手段だけど」
「うちのパパに車で送ってもらうんだよ?」
「あの……、私とハルカちゃんとぞっちゃん、三人でも大丈夫? 荷物も多いと思うけど」
「言われてみればそうだね……」
同行って言うんだから一緒に行くんだと思うんだけど、もしかしたら考えなきゃいけないことが結構あるかなって気がしてきた。その、本当に東京探検っていう響きにつられて、思いついて聞いてみたって感じだったから、具体的なビジョンがぜんぜん無い。
「ごめんね、なんか。こっちがお願いしてるのにケチつけるみたいになっちゃって。私は、自分の交通手段を考えてみるよ。バイクもあるし」
「あのスクーターじゃ荷物運べないでしょ?」
「……まぁ、なんか考えてみるよ」
スクーターじゃハルカちゃんも運べないよな。
……ユカちゃんに頼んでみよう。運転できるから。




