……7月25日(月) 14:30 よれひーチャンネル
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第九章 東京は魑魅魍魎が跋扈する、いわば此の世の伏魔殿とか
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「……じゃあ、私達はレザミ・オリセだから、よろしく、さーちゃん」
私のハルカちゃんの話を、そう言ってぞっちゃんがまとめる。
言いながら、ぞっちゃんは自分の服の襟元をちょんちょんと引っ張っている。お揃いの服だよ、というアピールだ。ぞっちゃんはお揃いとかそういうのが好きだから、この服も嬉しいんだろう。
お揃いといってもみんな同じ服ではなくて、レザミ・オリセの三人は色味が統一されていて形自体はけっこうバラバラだ。
衣装は白地に銀と水色という強烈な主張のあるものなので、間違いなくグループみたいな雰囲気は出てるはず。色も日常向きじゃないけど、それ以上に全体的にまた派手というか、普段着としては使えそうにないデザインというかなんというか。
ぞっちゃんはプリーツのミニスカートとパフスリーブで全体的にひらひらしたいかにも女の子らしくて可愛らしい印象の強い服だ。ぞっちゃん自身の雰囲気もあって、これがよく似合ってる。ハルカちゃんは膝上から膝下にかかる段違いのラップスカートと両側で長さがやっぱり違うひらひらした袖の服でシュッとスマートな感じ。そもそも顔もスタイルもお人形そのものの造形美なので、似合うも似合わないもない。生まれたときから着てたみたいだ。
そんな二人と並んだ私が着せられているのは、左右で色の違う五分丈ぐらいのパンツとノースリーブで、二人に比べたら大幅に簡素。でも私としては、こういう簡素なところが非常にありがたい。
言い換えると、ひらひらした部分がなくて本当に良かった。
私はひらひら装飾が本当に苦手なのだ。
見た目が嫌いかと言うとそんなことはないんだけど、視界の隅でずっと動いてるような気がするとか、小さな風にも煽られてひらひら動くとか、そんなこんなで着ていると強烈に気が散ってしまう。窓ちゃんに可愛いよとおだてられてちょっと着たりする分には褒められて嬉しいし、嘘やおだてが極端に苦手な窓ちゃんが褒めてくれるならきっとほんとなんだろうなぁと思えるんだけど、それ以外の人に言われてもまぁお愛想が混ざってるだろうしなぁという気もするし。
そんなわけで、思いもかけずこんな服を着せられたことに恨みはあるけど、ひらひらしてない事には感謝してる。友情と相互理解の力だ。
ついでに、出番前に着替えたときに似合ってるとも言ってもらえたのは嬉しい。
この二人が褒めてくれるということは、つまりお愛想も混ざってるということではあると思うけど、正反対の「見るからにおかしい」だったときには遠慮なく注意しくれるはずなので、最低限無難ではあるんだろう。でも、ものすごく似合ってたらもっと大袈裟に褒めてくれてただろうという気はするから、全体的な評価の上限は低めじゃないかという気はするけど。
とはいえ、自分で選んでない衣装なんだから文句を言うつもりなんて無い。
自分じゃよく分からないというか、好みに照らすと派手すぎるんだけど、衣装っていうのはそういうもんなんだろうし……。
スタジオの端、カメラに映らないところにはユカちゃんもいて、私が衣装姿でキョトンとしているのを見て爆笑している。
ユカちゃんは大宮まで送ってくれただけなのでいまは見学。
くそっ。暢気にして居やがる。
お前も引きずり出してやるからな。
「さっそくちょっと面白いレザミ・オリセのみなさんですが、これから二週間、少し長い間東京を一緒に探検するので、今日はみなさんの自己紹介を兼ねてお話していきたいと思います。今回のこれは撮って出し。それから東京探検中もちょっとずつレザミ・オリセの皆さんを交えて生放送もしますから、お楽しみに」
司会のよれひーさんがにこやかに番組の進行をしている。
ご覧のとおり、私も番組の参加者である。
大宮に到着してから今の今まで普通に臨席してたから成り行きは全部知ってはいるんだけど、それでもあえて言いたい。
本当に、なぜこんなことになっているのか……。




