7月25日(月) 14:30 よれひーチャンネル
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第九章 東京は魑魅魍魎が跋扈する、いわば此の世の伏魔殿とか
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7月25日(月)
14:30
よれひーチャンネル
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「はーい、みなさんおはよーろれいっひー。よれひーでーす。以前からの告知の通り、明日から東京に向かうわけですけれども、今日はその事前特番!」
夏休みになって、いよいよ東京探検。
その初日、私は素っ頓狂な衣装を着せられて、ぞっちゃんとハルカちゃんと並んで、なぜかカメラの前に立っている。
喋っているのはさっき会ったばっかりの軽薄な印象のおじさん。
いや、紹介されたから正体も知ってる。
このおじさんは、よれひーさんというストリーム番組の人気者だ。
ここは大都会大宮。
大宮のマンションの一室。
一見普通の住居のようだけど、各所に大きめのスペースを取って撮影に使いやすくしているルームスタジオ。
私たちの目の前にはカメラ。素っ頓狂な銀と水色の衣装を着せられ、いま、録画番組の撮影が始まったところです。
なぜこんなことになっているのか……。
なぜ私がこんな目に合わなきゃいけないのか……。
ああ、いかんいかん。
回想に入るのにはまだ早い。
あれよという間に思いもよらないことになって、つい幽体離脱してしまった。
現実を生きなければ。
事情だってわかってるし、別にストリーム番組に出るのだって、嬉しくはないってだけで嫌ってわけでもない。勝手がわからないから戸惑ってるだけだ。普通にしてればなんとでもなるだろう。しかも、もし仮に番組がなんともならなくなっても、困るのは私ってわけじゃないもんな。
だからまごつく必要なんて無い。
まぁ……、番組が成立しなければ、困らなくても居たたまれなくはなるだろうけど、それでも我慢できる範囲だ。なにしろ私は人が多いところに行くと大抵の場合は身の置きどころがわからないんだから、居たたまれないのには慣れてる慣れてる。居たたまれないでいることにかけてはもはや専門家みたいなもんだ。
と、あえて言葉にするとこれぐらいになる逡巡を一瞬で巡らせ、離脱してた幽体を飲み込んで魂を体の中に戻してきた。
いつのまにか思考が迷走してはっと我に還るみたいなこと、私は普通より多いみたいで、こういうのにも慣れてる慣れてる。
「それでは、実際に東京に向かう前に一緒に東京に行ってくれるみんなの紹介をしたいと思います。東京探検のゲストのグループ、レザミ・オリセのみなさんでーす」
「えっ? 折瀬のなんだって? それって私達?」
呼び名がついている事を驚いて、つい声が出てしまった。そこにぞっちゃんがさっと声をかけてくれる。
「レザミ・オリセだよさーちゃん。私達のグループ名、忘れちゃった?」
「忘れたもなにも、多分初耳だと思う……」
「あれ? 言ってなかったっけ?」
「ごめん。私が伝えるはずだったんだけど、忘れてたかも」
これはハルカちゃん。いつもより声のトーンが抑え目だ。
「あ、そうなの? なら仕方ないか」
「う……、うん……? 軽いな。もう一個教えて。折瀬の何? どういう意味?」
「レザミ・オリせ。フランス語で『高校の友だち』って言葉をちょっともじった」
ハルカちゃんが教えてくれた。
「なんでフランス!? あ、後半がもじりなの?」
「そう。リセっていうのが、フランス語の高校なんだって」
「……たしかに、なんか微妙に聞いたことあるかも……。じゃあ、レザミオが友達?」
「友達はアミ。あとは英語で言うザとかオブとかに当たるやつ」
「……じゃあ、私達はレザミ・オリセだから、よろしく、さーちゃん」
私のハルカちゃんの話を、そう言ってぞっちゃんがまとめる。
言いながら、ぞっちゃんは自分の服の襟元をちょんちょんと引っ張っている。お揃いの服だよ、というアピールだ。ぞっちゃんはお揃いとかそういうのが好きだから、この服も嬉しいんだろう。




