7月18日(月) 8:00
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第八章 其の人の罪、有りや無しや。其れは有耶無耶。
━━━━━━━━━━
7月18日(月)
8:00
━━━━━━━━━━
週が明けての登校日。
学校自体はあと数日残っているけど、折瀬分校としては夏休み前の最後の登校ということになる。金曜、二十二日の終業式はリモートで参加してもいいし迂川郷の本校舎に出席しても良い。という建前だけど、下の学年の子たちは迂川郷に行きたがるから上の学年の生徒たちはその引率を兼ねて迂川郷に行くことになっている。お察しのとおり、私は行かないでいいなら行かないで済ませたいみたいなところはあるんだけど、みんなで行くのが当たり前になっているのを逆らってまで行きたくないというほどでもないので、結局はつきあって迂川郷の本校舎に行くことになる。
今回はハルカちゃんも居るから参加しない選択肢はない。「あの噂に聞く終業式」と、ハルカちゃんはものすごく楽しみにしている。
……終業式が、噂に?
エンターテイメント重視のフィクション作品で、卒業式ならともかく終業式なんてものがクローズアップされるようなことがあるんだろうか?
そう聞いたら「色々な作品を見ても名前が出てくるぐらいで、実態がほとんどわからなくて」だそうだ。
確かに、それはそうかもしれませんわな……。
実際には生徒の立場だと「なにもしない」に近いんだけど。
そして週明けと言えば、窓ちゃんが今日から学校に復帰。
ついでにハルカちゃんの腕は、今日までの間に正常な状態に戻すことができている。
田舎の村の高校生活なんて日々日々変わり映えしないものだとばかり思っていたけど、こうしてみるとそれなりに変化というものはあるものだ。これまでは友達が謹慎から戻るのを待つことがあるかもしれないと考えたこともなかったし、一月前には友達の腕が生え揃うのが登校日に間に合うかどうか気にかける日が来るなんて一生のうちに一度でもあるかもしれないと思ったことはなかった。
そもそも、自分から腕をもいでその腕がまた生えてくる友達ができるという事から想定外だったけど。
そういえば、その珍しい友達はいつの間にか自分の携端を用意していた。
自前だそうだ。
学校の先生との約束では私がハルカちゃんの携端の設定を手伝ってあげる約束にはなっていたけど、もちろん私はなんにもしてない。大体において、この手のものに関してハルカちゃんが私の助けを必要としていないのだから当然だ。
しかし、自前ってつまりどこから調達したのか……。
知りもしないことを考えたって答えがわかるはずもないので目の前にいるハルカちゃんにさらっと聞いてみたら、腕用の材料が余ったからそれを流用したとか。なるほど調達に手間をけずにぬるっと用意できるわけだ。
ん? 腕用の材料を流用?
つまりこのタブレット型の携端は、ハルカちゃんと同じく銀沙細胞でできてんのか……。
もしかして、生き物?
見る限りだと本当に普通の携端に見えるけど、これが生物かもしれないと思うとちょっと不気味だ。食事をして呼吸をしてという物体には見えないし、ハルカちゃんだって(多分)どっちもやってないんだから、この携端もどっちもやってないだろう。だとしたら不気味とまで思わない。……思わなくて良いはず。思わなくていいという事に決めた。
生きてるかどうかはさておいて詳しい人が見たら携端のメーカーとか型番とかに疑問を持つのかもしれないけど、その辺にあんまり興味がない私が見ると、ハルカちゃんの自前の携端は普通のものに見える。
さて、ときに。
先週を通じて、クラスの雰囲気は私にとって劇的に居たたまれないものとなってきている。状況を振り返って心構えをしておこう。
まず、窓ちゃんはゴジのことが好きだという例の噂話がかなり広まって、全体的にそういう雰囲気になった。その噂の関連事項として、窓ちゃんが銃刀法違反で捕まって、それをゴジが防衛隊に話をつけて釈放させた、みたいなストーリーがまことしやかに語られている。
この話に私が巻き込まれて、なんというか恋愛的な意味で私がゴジに振られたことになってしまっている。




