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諸々が千々に降下してくる夏々の日々  作者: triskaidecagon
第八章 其の人の罪、有りや無しや。それは有耶無耶。
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……7月16日(土) 10:00

諸々が千々に降下してくる夏々の日々

 第八章 其の人の罪、有りや無しや。其れは有耶無耶。


――――――――――― ――――――――――― ―――――――――――

「佐々也ちゃん本人はね。……これは、護治郎くんの中の佐々也ちゃんと私の戦いだから」

「そういうもんですか」

 とはいえ、窓ちゃんはやっぱり戦士だというか、戦って勝ち取る気なんだということがわかった。これはこれで窓ちゃんらしい気はする。

 いい機会だから、窓ちゃんにはゴジのどんなところが好きなのかを改めて聞いてみた。

 答えは即答で「優しいところ」だって。

 ゴジが優しいのかというと……、確かにゴジは比較的柔和な方の人間だとは思うけど、人よりまさって優しいというほどかというと、そうでもない気はしている。私がゴジの性質を表現するなら『情愛が強い』みたいな感じになるかな。今は年頃の少年らしく素っ気ない態度をしているけど、身近なものや想起されたものに対する情緒的な反応が理性よりかなり優越してしまうというか、なんというのか難しいけど、そういう反応をしやすい人間だと思う。

 情熱的とか好悪が激しいとかいうのとはまた違うんだけど、とにかく恋着に対する反応が強い。それが身内に対して良い方に働けば確かに思いやりのある感じの振る舞いをすることも多いけど、そうでない相手に対して同じだけ優しいのかといえば違う。

 ご両親が亡くなって能力が暴走して幹侍郎ちゃんを生み出したのも、そういう情愛の強さなんだろうとは思う。私が親を亡くしたとしても、同じようにはならないだろうし。

 とはいえ、ゴジのそういう性質は、窓ちゃん自身が恋人に求めているだろうものとか、窓ちゃんが生きていくのに必要としているだろうものにはしっかりと合っている気はするし、それをまとめれば「(窓ちゃんに対して)優しい」という言葉で表現するのも妥当だろうとは思う。

 ゴジが誰かに恋愛感情を持つ時、その相手のどういうところを好ましく思うのか、私にはよくわからない。いままで、誰かにそういう感情を持っているという話を本人から聞いたこともないし、誰かを好きでいるような様子を見せたこともないから、観察の機会が不足している。

 更に言うと、私は自分自身が誰かのどういうところを好きになるのかもわからない。

 誰かに恋愛感情を持ったことがある気がしない。

 だから、窓ちゃんから好きなところを聞いてみても、なにかを言えるわけでもない。

「そっか……」

 結果、窓ちゃんの気持ちを聞かされても、こう言うぐらいが精一杯だ。

 お似合い、かどうかは私にはよくわからない。というか私はお似合いというのをどういう時に言うのかもよく分からない。フィクションなんかの恋愛話だと容貌的な釣り合いを指している気はする。窓ちゃんは美少女だけど、ゴジは普通ぐらい。身長差みたいな釣り合いは良いのかもしれないけど、この二人だとゴジはバイクの後ろに乗せてもらう方なんだよな。見た目とそのへんは不釣り合いというかなんというか。

 だからお似合いかどうかはよくわからないけど、厳しい戦いに身を投じなければいけない窓ちゃんにとって、馴染みの相手に親身になって心を砕いてあげるゴジは良い相手だと思う。ゴジにとっても窓ちゃんが悪かろうはずがない。私だってゴジの相手が窓ちゃんなら大安心だもんな。

 二人とも私にとっての一番大切な友達だから、どっちにしても友達を取られちゃうみたいな焦りみたいな気分が無いと言ったら嘘になるけど、二人とも恋人ができたら私を邪険にするなんてことはないと信用できるので、友達を取られちゃうなんて心配は杞憂のはずだ。

 せっかく聞いたけど、特に感想の言葉も出てこない。

「そっか……」

 って何回か言ったと思う。


 帰りがけにバイクに乗せてもらった。

 展望台からの下り坂は怖すぎて一旦おろしてもらって、大回りに降りてからもう一度。私はスクーター用のヘルメットを持ってきた。

 バイクの後ろに乗るのは、たしかに怖いけど楽しかった。

 そして、確かに捕まるところは不足するので、窓ちゃん本人に捕まるしかなかった。

 それでゴジが照れて死ぬかどうかまでは分からない。実際に乗せてみて死ぬかどうか試せば分かるんだろうと思う。

 降りた後「どうかな?」と窓ちゃんが聞いてきたので、「いいんじゃない?」と答えておいた。正味の話、無理ならゴジが自分で言い出せばいいことだ。

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