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諸々が千々に降下してくる夏々の日々  作者: triskaidecagon
第八章 其の人の罪、有りや無しや。それは有耶無耶。
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……7月16日(土) 10:00

諸々が千々に降下してくる夏々の日々

 第八章 其の人の罪、有りや無しや。其れは有耶無耶。


――――――――――― ――――――――――― ―――――――――――

「違うよ。佐々也ちゃんのせいじゃない。やろうと思ったのは私なんだから」

「ごめん……」

「謝らないで佐々也ちゃん。本当に嫌なら誰かに言われたってやらないし、それに良いこともあったから」

「良いこと?」

 聞き返したら、窓ちゃんが俯いてしまった。でも、なんとなく嬉しそうだ。

「その……、護治郎くんの研修だけど、防衛隊の基地でやるから私が送り迎えすることになって……」

「うん?」

「その……、私は優花子と違ってバイクしか乗れないから……」

「はぁ……」

 ゴジの研修は窓ちゃんが所属してる防衛隊の基地署で行われる。窓ちゃんの訓練も同じ場所なので、バイクで送り迎えする約束なんだとか。ゴジの研修は一回あたり半日かからないから、幹侍郎ちゃんもほったらかしになりすぎない見込みだとか。

「バイクで送り迎え。二人乗り……」

 実際の情景を思い浮かべてそのままの言葉が口から出る。

 あれ、怖いんだよね……。

「佐々也ちゃん、ごめんね……」

「へ? なにが?」

「なんか、抜け駆けするみたいで……」

「抜け駆け?」

「その……。二人乗りする時って、しっかり捕まってもらわないといけないから……」

「そりゃそうだ」

 ここまでの話ではなんで抜け駆けなのかわからないから普通に相槌を打ったら、窓ちゃんが顔を赤くして俯いてしまった。

 つまり、もう話の本題があったってことなんだよな?

「……ああ! 密着するって事か!」

 私がそう言うと窓ちゃんはさらに顔を赤くしてうなづいた。でも、悪いと思っているという言葉とは裏腹に、雰囲気はどことなく嬉しそうだ。

 そんなに意識するような事なのかな? よく分からない。

 でも、そうだとすると、逆にゴジが捕まっていられるのかどうかが心配になってくるな。ゴジは世の中で一番気安いであろう私に接近したぐらいで緊張してしまうぐらいだ。窓ちゃんにしがみついたら照れて死ぬんじゃないだろうか。

「やっぱり、バイクの二人乗りって、後ろの人は運転手にしっかり捕まってないと危ないの?」

「……うん。危ないよ。他に捕まっていられるところもないし」

「なるほど、捕まるところがないのか。言われてみればそうだ。考えてみれば、よくそんなもの運転できるね」

「ライダーは大丈夫。足を置くところもあるし、前屈みで安定してる。自分で動かしているからバランスも取りやすいし……。佐々也ちゃんだってスクーター乗ってるから知ってるでしょ?」

「まぁ乗ってるけど、自分がどうやって乗ってるのかよくわからない。慣れたから転ばずに乗れてるだけだよ。でも言われてみると、普通のバイクだと後ろの人はそういうの全部無いのか! そりゃ大変だ」

「足置きと掴まるところなら一応はあるけど、ちゃんとしたものじゃないから不安定で……。やっぱり、護治郎くんとの二人乗りはやめた方がいいのかな……」

 法律で禁止になる程じゃないんだから、それを理由にしてやめることはないと思うが?

「掴まるところがあるなら……、ああいや、一応あるってぐらいなら、危ないのか」

 確かに椅子に座っている時、座面の近くに掴まるところがあっても安定はしないだろう。そう考えると、掴まれそうなところは……。

「やっぱりライダーに掴まる感じ? 掴まるってどこだろ? 肩とか?」

「肩だと運転してる時に動くから……」

「そうだよね。じゃあお腹に手を回して体ごとしがみつくのが安心なのかな?」

「あんまりくっつくとそれはそれで危ないから、しっかり座ってお腹の横ぐらいを持って、座った姿勢のバランスをとってもらうのがいいんだと思う。そんなにスピードを出すわけじゃないし」

「難しいな……。イメージしにくい。今度、私も後ろに乗せてもらってもいい? 少しでいいんだけど」

「佐々也ちゃんが嫌ならやめた方がいい?」

「え? 嫌ってなにが?」

「その……私が護治郎くんをバイクでの送り迎えするの……」

「? 嫌じゃないよ? 最初はゴジが窓ちゃんにしっかり掴まれるかどうか気になってたんだけど、それより話を聞いてたら二人乗りの後ろに乗るのってどんな感じか知らないと思ったから、ちょっと乗せて欲しいなーって思っただけ」

 私の言葉に、窓ちゃんはちょっと釈然としないような顔をしている。

 でも、出かかった言葉は飲み込んだらしい。

「……じゃあ、乗る?」

 窓ちゃんがバイクを指差す。

「あっ、バイクあるもんね。……そんなに急ぐことでもないんだけど」

「ううん。公平にするなら、先に佐々也ちゃんに乗ってもらいたい。私、佐々也ちゃんにも負けないよ」

「私は争う気はないんだけど……」

「佐々也ちゃん本人はね。……これは、護治郎くんの中の佐々也ちゃんと私の戦いだから」

「そういうもんですか」

 わからん。

 とはいえ、窓ちゃんはやっぱり戦士だというか、戦って勝ち取る気なんだということがわかった。これはこれで窓ちゃんらしい気はする。

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