……6月21日(火) 13:25
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第一章 宙の光に星は無し
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「佐々也は、なんでそんなアプリを持ってるんだよ!」
私が手元の可愛い女の子の顔写真を見せると、ゴジがそんな事を言ってきた。
楽しい会話のときによくあるツッコミというやつなので、あまり頑張って反論したりする必要はない。
「いや、あの、写真の明度調整しようと思ってアプリないかと探したらこのアプリが出てきたんだ」
本当は明度の調整をしただけだとなにがなんだかわからないから、写真からなにか意味のある部分を取り出せないかを携端――携帯端末――で調べてたら、誰かがおすすめしている特定趣味向けの解析アプリを見つけてしまったのだ。
「でも、すごく可愛いと思わない?」
「可愛い……かな? 未塗装なうえに白目だからよくわからない……。え? ここに書いてある、死亡確率ってなに? 九八パーセント?」
「ああ、画像に写ってるのが事故現場だったときとかに怪我の状態とか判断してくれる機能があるみたい。あのフィギュアは下半身が無かったし顔色も普通じゃなかったから、それで死亡確率が高いらしいよ。説明文は、ええとどこを操作すると見れるんだっけ?」
「いいよ別に見せなくて! そもそもなんでそんな死んでるかどうかなんて解析したんだよ、こわ……。人形だからそりゃ生きてなくても良いんだけど、逆にこの二パーセントはなんなわけ?」
「そこはガバ判定らしい。なんでも浮世絵とか判定しても二桁行くこともあるらしいし」
「浮世絵より生存確率低いの!? このフィギュア!? リアルっぽい造形に見えるけど」
「ああなるほど? そうかもね、まあいいや。……ってことで、写真ちょうだい。幸い同じ現場の写真が二枚になるし、それでなにか分かるかもしれない」
「いや、あげるけどさ……。なんか嫌な結果が出そうだな……」
そう言いながらゴジがメッセで写真を送ってくれたので、私は条件を設定して解析を始めた。
数十秒の待ち時間。
一瞬というわけではないけど、その場でぱぱっと終わるはずだ。
そんなこんなゴジと話していたら、「ちゅうもくー」と大きな声で注目を集めながら教室前方のドアが開いて渡部先生が入ってきた。
え? 午後の授業はリモプレでホームルームでもないのに、どうして先生が来たの?
なに? なんで?
気がつくと、さっきまで話していたゴジは私が混乱してるうちに自分の席に戻っていた。
横目にゴジを見てから改めて渡部先生の方に目をやると、ものすごい美少女を連れている。
とてつもなく整った顔立ちをしていて、髪の毛はメタリックな銀色。
そして私達が着ているのとは違う、どこかの学校の制服を着ている。
「あー、みんなに転校生を紹介します。じゃあ、挨拶して」
「こんにちわ。ハルカです。ハルカちゃんって呼んでください。よろしくお願いします」
銀色の髪の毛はなかなか珍しいけど、いまどきなら無いとは言えない髪色だ。しかしこのハルカちゃんの顔立ちはすごく美人で、どこかで見たことがあるような気がするぐらいだ。もしかしたら、誰か有名人とかに似てるのかもしれない。
美人といえば有名ストリーマーとかファッションモデルとかなんだけど、それよりもっと身近な気がする。田舎の村だから知り合いが少ないとはいえ、顔見知り程度なら何百人も思い浮かぶ顔はあるんだけど、そのうちの誰かというわけではなさそうだ。そもそもこのハルカちゃんに似てるなら大層な美人だろうし、これだけの美人なら忘れることなんてなさそうなもんだ。わからぬ。まぁいいか。後で気がつくこともあるだろう。
それにしても転校生……。
噂には聞いたことがあるけど、転校生ってやつが本当に存在するのに驚いた。
『転校生』がこの村に実在していることに比べたら、髪の毛が銀色だってことの方がぜんぜんありそうだ。長年の人類とTOXの戦いによって人口の移動には慎重な世の中である。とはいえ誰も引っ越しちゃいけないなんてことはないから、理屈の上では転校生は存在するし言葉としても存在するんだけど、なにぶんにもこの折瀬は田舎の村で、誰かがわざわざ引っ越してくるような理由があるような土地ではないんだよなぁ。
人口が集中しないから、TOX対策としては引っ越し先は田舎の方が都合がいいみたいな話もあるんだけど、その場合でもここ折瀬みたいな辺鄙なところではなくて下の町の迂川郷になるのが普通だろう。迂川郷だって充分に田舎だけど、この教室の本校舎があって普段から先生が対面で授業をできるぐらいの人口があるし、スーパーマーケットもあるから買い物だって手軽だ。




