……6月21日(火) お昼休み終了二分前
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第一章 宙の光に星は無し
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「あー、みんなに転校生を紹介します。じゃあ、挨拶して」
「こんにちわ。ハルカです。ハルカちゃんって呼んでください。よろしくお願いします」
銀色の髪の毛はなかなか珍しいけど、いまどきなら無いとは言えない髪色だ。しかしこのハルカちゃんの顔立ちはすごく美人で、どこかで見たことがあるような気がするぐらいだ。もしかしたら、誰か有名人とかに似てるのかもしれない。
美人といえば有名ストリーマーとかファッションモデルとかなんだけど、それよりもっと身近な気がする。田舎の村だから知り合いが少ないとはいえ、顔見知り程度なら何百人も思い浮かぶ顔はあるんだけど、そのうちの誰かというわけではなさそうだ。そもそもこのハルカちゃんに似てるなら大層な美人だろうし、これだけの美人なら忘れることなんてなさそうなもんだ。わからぬ。まぁいいか。後で気がつくこともあるだろう。
それにしても転校生……。
噂には聞いたことがあるけど、転校生ってやつが本当に存在するのに驚いた。
『転校生』がこの村に実在していることに比べたら、髪の毛が銀色だってことの方がぜんぜんありそうだ。長年の人類とTOXの戦いによって人口の移動には慎重な世の中である。とはいえ誰も引っ越しちゃいけないなんてことはないから、理屈の上では転校生は存在するし言葉としても存在するんだけど、なにぶんにもこの折瀬は田舎の村で、誰かがわざわざ引っ越してくるような理由があるような土地ではないんだよなぁ。
人口が集中しないから、TOX対策としては引っ越し先は田舎の方が都合がいいみたいな話もあるんだけど、その場合でもここ折瀬みたいな辺鄙なところではなくて下の町の迂川郷になるのが普通だろう。迂川郷だって充分に田舎だけど、この教室の本校舎があって普段から先生が対面で授業をできるぐらいの人口があるし、スーパーマーケットもあるから買い物だって手軽だ。
今日は珍しい、二週間に一度の私の住んでいる村での登校日。
村の高校生が全員、六人だけの高校生が全てこの教室に揃っている。
はい、と手を上げてぞっちゃんが転校生に質問をした。
ぞっちゃん、枝松みぞれ。
比較的大柄で華やかな美少女。それでいて人懐っこい、あらゆる面で可愛い子だ。
男女問わず下の町のクラスメートたちから大変な人気がある。
「ハルカさんは、名字ですか、名前ですか?」
さすがぞっちゃん。愛嬌の化身。
「ハルカは名前ですカタカナでハルカ。名字はアマミヤ。漢字で天使の天に宮城県の宮です」
「アマミヤハルカ? なんか、可愛い名前だね」
確かに可愛い。
というか芸名的でわざとらしい名前だけど、作ったような美形なのでそんな名前もよく似合う。
「本日より、急遽このクラスに入ることになった。みんな、仲良くしてあげてほしい。天宮、細かい打ち合わせはまた後でな。いまは、質問してきた枝松の隣に座って、みんなと一緒に授業を受けてくれ。枝松は天宮が困ってたら助けてあげてくれ」
「はーい。ハルカちゃん、隣に座ろー」
ぞっちゃんに呼ばれて、天宮さんは笑顔を湛えたままぞっちゃんの隣の席に座った。
私は何気なく天宮さんの動きを目で追っていたのだけど、同じ方向にさっきまで話してたゴジの席があるので視界にゴジの様子が目に入る。するとなぜか、ゴジが妙に慌てた様子で私に手真似を送っていた。
携帯端末でページ送りをするようなジェスチャーなんだけど……?
「???」
どうも、私にそれをやれと言っているようなんだけど……。何をめくれと?
|:ゴジ:|さっきの顔写真||
私が要領を得ない顔をしていると、個人用の携端宛にダイレクトメッセが送られてきた。
さっきの顔写真? ゴジと確認していた写真だろうか。
フィギュアの美少女の写真をなんでいま?
そもそも先生がいるときに個人携端を触るのは、私は嫌なんだよなぁ……。なんていうのか私は何事につけあんまり要領が良くなくて、たぶんこっそり見ようとしても先生に見つかっちゃう。別にその程度のことで怒られたりはしないんだけど、話を聞かないで携端いじってるなんて先生には失礼だし……。
まぁ、メッセージは確認したんだし、ゴジもなんかただならぬ雰囲気だし、ここは見ておいたほうが筋が通る気はする。仕方ないから、いちおう確認しようか。やむなし。
と、さっきゴジと見ていたときから起動したままだった画像解析アプリの作業内容を一時保存して履歴閲覧機能からさっきの顔写真を表示する。
!!!
めちゃめちゃ驚いた。
アプリの表示されていたのは、白目になった天宮さんの顔だった。
なんでこの顔写真の天宮さんは金属肌で白目なの? いや違うか、この写真は白目の天宮さんじゃなくて、近所で見つけた等身大フィギュアの顔をアプリで解析した予測画像だ。
ああ! 手近で見たことのある顔だと思ったのはこれだったか!
なるほど!
いやいやいや、ちょちょちょ、ちょっと待て!
なんでここに写ってるのが天宮さんの顔なのか、写真を撮ったときのことをもう一度思い出そう。あれは昨日の夕方、ゴジの家に煮物を届けに行った帰りのことだ。
私は昨日、夕日が落ちそうになる時間に母に言われてふきと厚揚げの煮物を隣のゴジの家に届けに行ったんだ。




