……7月14日(木) 8:00
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第八章 其の人の罪、有りや無しや。其れは有耶無耶。
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そういえば、ハルカちゃん、腕はどうしたんだろう?
ぼんやり気になったので確認してみると、昨日なくなっていた左手のところに、なにか細い金属の棒で作ったみたいな義手が生えていて、それでコントローラを操作しているみたいだった。
朝から一緒にいたはずなんだけど、今頃気づくとは……。
よっぽど眠かったんだな……。
「ハルカちゃん、その腕、いつごろ治るの?」
体を起こしたりもせず寝てたときのままの姿勢で、寝ぼけた声で軽く話しかけたんだけど、思ったより声が出なくてかすっかすの囁きみたいになってしまった。
「あ、これ? 明日の午後かなぁ……。腕をまるごとだと、意外と材料が必要で」
それでもハルカちゃんは気がついて答えてくれた。
ゴジと幹侍郎ちゃんはゲームに熱中している。
ハルカちゃんは私との問答とゲームを同時にこなす感じになってるけど、ぜんぜん破綻しないようだ。その辺、並列処理ができる様子。一緒にいると忘れがちだけどハルカちゃんは一人で宇宙探査できる有能人材だから、いろいろと高性能なんだろうなぁ。
とはいえ喋りながらゲームやる人なんてストリームのゲーム実況ではいっぱい見るから、宇宙探査に関連付けて感心するほど大事でもないのかもしれないけど。
「材料集めが大変なの? 初めて会ったときには、半日ぐらいで全身の半分以上が生えてた気がするけど……」
「それは銀沙細胞の生成メカニズムの問題で……。簡単に言うと、最初は材料集めに特化してたから早かったんだ」
「ふーん……」
分かるような分からないような。
材料……。子供の成長は大人より早いとかそういう事とかなんだろうか。
「それで、今後を見込んで、材料集め用の機材をこの部屋に置かせてもらうことにしたんだ」
あれ、と言って、ハルカちゃんが部屋の隅に置いてある例の機械の方を指差す。半分寝ぼけた状態が心地よくて、体を動かしてまでそっちを見る気はしない。
アレはそういうものだったのか。
「材料集めって最初は体の中でやってたやつなんだよね? その機能だけ分けられるの?」
「できるよ。できるけど、普段はあまりやらない。自律して細胞生成する機械は暴走すると危ないからね」
あー……。フィクションなんかでよく見る、あの(・・)…‥。
「……最後に宇宙が滅びるやつだ」
「重力崩壊とか光速の限界とかいろいろあるから、本当に宇宙を滅ぼそうと思ったらそれはそれで難しいんだけど、そう。それだよ。でも、常識的にやればそこまでではないんだ。今回は生成量に上限を設けてるし、私が自分自身で状態を監督できる。そもそも医療器具として私達の病院にも普通に置いてあるものだからね。個人で使うのは違法だけど、よく考えたらここでは取り締まる人もいないし」
「ああ、法律の話なんだ。らしくないと思ったよ」
「法律もそうなんだけど、道徳というか常識というか……。私個人がそう考えて選んで使わないようにしてたと言うより、使わないのが普通だと思ってたからという感じかなぁ。……それにしても、佐々也ちゃんはあの機械をきっかけにして私のそういう傾向に気がつくんだね」
ハルカちゃんが、らしからぬ硬い言葉で返してきた。怒らせちゃっただろうか。
「なんか、細かくてごめんね」
「ううん。謝ることなんてないよ。偉いなと思って感心してるんだから。最初に会ったのが佐々也ちゃんだったのは、思った以上に幸運だったのかもって」
「私はほとんどなんにもしてないと思うけど……」
「役に立つ人と知り合えてラッキー、みたいな話じゃないからね」
お気遣いありがとうございます。
ぼんやりゲームをしてるのを見ながら、私も半分夢うつつの中でゲーム中のハルカちゃんとそんなこんなの話をしたりとか。ハルカちゃんは話しながらでもゲームが強い。
みんながギャーギャー言いながらゲームをやってる姿を見るのは意外と楽しいし、夢うつつの状態のときに周りに友だちが居るのは、なんともいえないぼんやりとした幸せな気分だ。私は人が多いのが苦手だと思ってたけど、こういう幸福感を感じる能力はあるらしい。苦手のせいで幸せのレンジが狭くなっているだろうから、もったいないのかもしれないけど。
意識がはっきりしないので、画面の中のことがいつもよりホントっぽく思える。
ボーッと見ていると、ついに幹侍郎ちゃんがハルカちゃんを倒した。
「やったー! お姉ちゃんを倒した!!」
おおっ。
ぱちぱちぱち、と私も寝た姿勢のまま手だけ動かして拍手する。
「あ、佐々也起きた?」
一段落したからか、今度は拍手で気がついたらしく、ゴジがこちらに顔を向ける。
「あー、さっきは寝ちゃってたね。ごめん」
「いいよ。僕も実は、今日はあんまり授業をする気にはなれなかったんだ。だから、幹侍郎と遊ぶいい口実になった」
「そう? だったらいいんだけど……」
「佐々也ちゃんもバトルしようよ」
「あたしは下手だから、今日はやめとく」
いつもより消極的な気分なので、幹侍郎ちゃんの誘いも断ってしまう。
その後はみんながゲームをしているのをボーっと眺めて過ごし、時間が来たので帰った。
夜も早く寝た。




