7月13日(水) 18:00
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第八章 其の人の罪、有りや無しや。其れは有耶無耶。
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7月13日(水)
18:00
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叡一くんが帰った後、私は新しく靴下を履いて靴を持って幹侍郎ちゃんの部屋に降りて行き、一緒に遊んだ。ハルカちゃんは来ない。
再度私が訪れた時、幹侍郎ちゃんはハルカちゃんにもらったという番組を見ていた。
それは女子アイドルの歌と踊りが目を引くアニメだった。様子を窺うと、幹侍郎ちゃんはその歌と踊りのシーンが好きらしい。
確かにたくさんの人たちが縦横無尽に画面を飛び回っていて、キラキラと賑やかでとても楽しい映像だ。
幹侍郎ちゃんはアニメを見ながらその曲を一緒に歌っていた。
「歌憶えたの?」って聞いたら、番組で何度も流れる定番の曲なんだそうな。
どこかで聞いたことある曲かもしれない。
かすかな記憶を手繰ると、ボウリングのときにハルカちゃんがぞっちゃんと一緒に歌ってた曲かもしれない。
幹侍郎ちゃんの歌を聞いていると、夜空の星についての特徴的な歌詞があったので、おそらく間違いない。現在、夜空の星をモチーフにする歌はほとんど無い。
星。
ダイソン球の向こう側の風景。
もちろん見たことは無い。地球がここに来る前の時代。つまり、ついさっき叡一くんと話をした、イルカがまだ海に居た時代。夜空の星というのは一般的な風景だったとは聞く。再現映像を見たこともある。
今の地球の夜空は、昼よりも暗いけどぼんやりと青く光る遠くの天井だ。
元の地球の場所では、夜の空はいまの夜空より暗くて、天井ではない底なしの穴だったという。その中の星は、言われてみればわかるというぐらいの砂粒より小さな光。それが夜空の全体にたくさん。
砂粒なら近寄れば大きく見えるけど、星は近寄ってみることもできない。
望遠鏡で拡大しても小さいままだとか。
……わからないなぁ。
美しい、素敵なものの喩えに使われているようだけど、聞いた言葉から連想できるものは、どちらかと言えば寄る辺のない恐怖だ。
実際に見てみると、また違う気分になるんだろうか。
ぼんやりそんな事を考えてると、お話が一段落したらしい。
幹侍郎ちゃんはゲーム機のコントローラーを操作して、番組を終えさせた。あの番組、ゲーム機からみているのか……。そりゃそうか。この部屋で使える再生機はゲーム機ぐらいだもんな。
いま見てる番組が終わるまで手持ち無沙汰なので、歩いて近寄ってゲーム機の本体を確認。すると、本体の横にハルカちゃんのものらしき(違うはずはないけど)前腕部が転がっていて、こちらからは見えない切断面のあたりからなにか線が伸びてゲーム機につながっている。
「げっ……」
形が腕のまんまかよ……。
そう言えばハルカちゃんはあのゲーム機で番組を見るために腕を失ったらしいけど、なにをどうすればそういうことになるのかよく分からないと思ってたけど、なんか、だいたいわかったなこれは。つまり腕を外部ストレージにしたんだろう。
ハルカちゃんが腕を生やす材料の収穫をすると言っていた事を思い出し、入り口デッキの上の隅においてある謎の機械の方を見上げてみたけど、角度的にここからは見えない。まぁ見なくてもいいか。なんとかするって言ってたんだからなんとかするんだろう。
アイドルアニメが一段落した後、幹侍郎ちゃんと一緒にぞっちゃんの番組をもう一回見ることになった。
うう……、私はこの番組見るの辛い……。
でも幹侍郎ちゃんはすごく楽しそうだ。知ってる人が画面に写ってるのが面白いらしい。私は自分が嫌なやつに見えないか、幹侍郎ちゃんの反応を気にしていたけど、別にそういう様子はない。とはいえ、幹侍郎ちゃんが見た私だから、身内びいきもあるだろうし、世間一般とは反応は違うだろう。とりあえず、幹侍郎ちゃんから嫌われなくてよかった。
並んで番組を見ていると、「ねえ佐々也ちゃん」「なに?」「次に番組出るときは、『はいどーもー』ってやってよ」とか言われてしまった。はいどーもーってなにかと思ったら、幹侍郎ちゃんが好きなストリーム番組のホストの定番の挨拶らしい。「次に番組に出る機会なんて無いと思うよ」と答えたら残念がっていた。
どれくらい過ぎた頃か、ゴジが降りてきた。
時間を確認すると、もう八時過ぎ。九時も近い頃だ。
「あれ? ゴジは釈放されたの?」
「僕は逮捕はされてないよ!」
「窓ちゃんは?」
「わからない……。でも、隊長っていう人に、そう悪いようにはならないって約束してもらった」
「そっか……」
隊長が誰なのかもわからないけど、名前を聞くと偉い人なんだろう。
細かい話はゴジよりもユカちゃんのほうが詳しいはず。ゴジの話を聞いてあげるのも大切だろうとは思うけど、それよりいまはもっと切実なことがある。
「ゴジ、私ちょっとトイレに行ってくるね。あとご飯とか色々」
「ずっとここに居たの?」
「それについても話があるけど、戻ってきてから。ちょっと時間かかると思うけど」
「わかった」




