……7月13日(水) 16:45
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第八章 其の人の罪、有りや無しや。其れは有耶無耶。
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「あ……ああ。なにかの言葉遊びなんだね。わかった。忘れるよ」
ハルカちゃんが何者で、叡一くんの言う小型飛行機械、つまりあのドローンがなにかまで。
ハルカちゃんは叡一くんを疑っている様子だったけど、忌憚なくぜんぶぜんぶ話してしまっている。叡一くんの表情は読めない。私と話していたときはもっと表情豊かだった気がするけど、ハルカちゃんに対しては能面のように表情を凍りつかせたままだ。
全て話し終わった後、表情を凍らせて呆然としたままの叡一くんが感想を漏らす。
「ちょっと……、信じ難いな。安積さんは天宮さんの話を本当だと思ってるのかい?」
「私も半信半疑だけど、確かめる方法がないからね。だから信じるかどうかなんだけど、普通なら考えられないようなところはいくつも見てるから、まぁ信じてるよ」
「えーっ! 半信半疑なのぉ?」
おうおう人外がかわいこぶっておるわい。
「そうだよ。でも、自分で確かめたことと、繰り返し見聞きすることは以外はぜんぶそう。自分で確かめてないという意味ではゴジが幹侍郎ちゃんを作ったっていう話も半信半疑のまんまだけど、それはそういうものでしょ。なんなら教科書に書いてあるようなことを読んだ時とおんなじ態度だよ。あ、えーと、数学の問題とかの特殊な場合を除いて」
「……佐々也ちゃんって、そういうところあるよね。でも、そういうところ、気が楽で良いよ」
「ありがと。……だから、まぁ、信じてはいるよ。不思議なことも色々とできるし、今みたいに片手が無くても平気だったりするし……」
「そうか……、確かめようがない……。それはそうだ。いやぁ、でもなぁ」
「おお、引っかかるね」
らしくない。
というほど叡一くんの人柄をよく知ってるわけじゃないけど、ここまで話してきた限り気取ったところはあるけど、考え方は柔軟な方だと思う。でも、そうでもなかったかな。
「それはね、僕からしたら世界の果ての向こう側から来たって言われてるようなもんだから」
「それは私としても同じなんだけど……」
「僕たちイルカが宇宙を飛ぶようになって以来、壁の向こう側の世界は無いことになってたんだよ。海に居た時代には宇宙のことは外側の外側だったから、夜空という以外の伝承もない」
* * *
叡一くんがイルカだという意識はもちろんあったのだけど、イルカたちは地球がダイソン球に来るまでは海の生き物で、今のような知能でなかったということは失念していた。とはいえ、比較的賢かったらしいのだけど。
「聞くところによると、イルカには地球時代の伝承もあるんだってね。神話があったりするの?」
「神話とかは特に無いよ。災害とか事件の話とかが多い」
「事件……。どんな?」
「鮫や大イカに襲われる話とか、深い裂け目に探検に行って帰ってこれなくなった勇者の話とか、人間の船に襲われる話とかだな」
「そりゃそうか。……これは単なる興味なんだけど、人間の船に襲われる、つまりイルカ漁といえば日本でもやってたらしいけど、そういうのってどう感じるものなの?」
「いや、特になにも。そういう時代だったんだろ? その頃には人間同士での殺し合いだってなかなか盛んだったらしいし、人間とはそうした生き物なんだろう。人間相手は殺しても食べないらしいし、食べるために殺したって話だったら理解できる範疇だよ」
「ああ、まぁそうか。殺し合いか……」
「というのが模範解答だね」
「えっ!?」
びっくりして声が出てしまった。
「つまりほんとは別の考えがあるってこと?」
「ははは、冗談だよ。でもイルカの中には別の考えのひともいる。野蛮だってね。まあ、そういうひとが多いかといえば、そんなには居ないよ。例外的かと言われると、そんなに少なくもないけれど」
「そういうものなんだ……」




