6月21日(火) 13:25
諸々が千々に降下してくる夏々の日々
第一章 宙の光に星は無し
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6月21日(火)
13:25
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お昼休みもあと五分で終わりという時間、なんとなく解散してめいめいでトイレに行ったりお弁当を片付ける頃合いになった。
私はなんだかこういう隙間の時間が好きだ。心が安らぐ。
みんなと話をするのは楽しくて好きだけど、楽しく話すのにはすごく心のエネルギーを使ってしまう。だから隙間があるとエネルギー回復にちょうどいい。
「……々也、佐々也……」
回復に努めてぼんやりしていると、聞き慣れた声が呼びかけてきた。
確認しなくても誰かは分かる。私は返事をするエネルギーを節約して、微妙に顔をそちらに向けることで応答した。ゴジの顔が半分ぐらい視界に入る。私が聞いているということはゴジには伝わったらしく、次の問いかけに移った。
「佐々也。今朝、あれ見に行った?」
「あれって……なんだっけ?」
気になったのでもう少し向き直ると、ゴジは妙に深刻そうな表情をしている。
ゴジと話すのにはエネルギーいらないから、会話しながらでもエネルギーが回復できる。耳を傾ければいいか。
「あの、林の中の……」
「あ! ああ! 見に行けてない。その、遅刻しそうだったから」
朝そのままにして、半日をすぎるともうすっかり忘れていた。
「見に行ったから遅かったわけじゃなかったと。見に行ってたら黙ったままってことないだろうから、そうだろうとは思ってたけど」
「ん? どゆこと?」
「あの林の人形なんだけど……。今朝、その……、無かったよ」
「え!? 無かった!? 無かったってあのフィギュアが? つまりどういうこと?」
「さあ? そんなこと聞かれても僕には分からない。いちおう、写真も撮ってきたけど、見る?」
ゴジが今朝撮った写真を見せてくれた。
これという特徴もないなんの変哲もない藪の写真だけど、さすがに見慣れてるのでうちとゴジの家の間のあの場所の写真だということはわかる。どこがと言われるとなにで見分けているのかはわからないけどまぁわかる。でもなにで見分けてるんだろう。木の間隔とか地面の角度とか?
とにかく、たしかにあの場所の写真だ。
そしてゴジの言う通り、あの人形は写ってない。
本気で疑うなら、場所は確かに同じだけど今朝の写真かどうかわからないとか言えるかもしれない。なぜそんなことを? って、ゴジもいたずらぐらいはする。私もする。というか私がそういういたずらをするから、ゴジも時々仕返しをしてくる感じだけど。
でもまぁ、写真のタイムスタンプだって見ようと思えば見れる。諸元確認。
【6/21 07:45】
今朝の七時四五分だそうだ。
「あれが在ったのって、ほんとに厳密にこの場所だったっけ? すぐ横にあるとかはない?」
「近所だから間違えっこないと思うよ。厳密かどうかはわからないけど、見回しても無かったし」
「けっこう大きかったよね? 見逃しとかはないか。とすると、誰かが持ってったとか?」
「わからないなぁ……。大きなものを運んだような形跡は無かったと思うけど……」
「足跡とかは?」
「そこまで詳しく見てないよ。僕は人形が無いって思っただけだし」
そうだよなぁ。
それに、ゴジの端末の写真を見ても、特になにも分からない。
「無しか写ってないなぁ」
「無は写らないと思うけど……」
ゴジはこういうジョークに非常に無粋にツッコミを入れてくる。
しげしげ見つめ直しても、やはり私の目では特になにか分かるようなことはない。
「あ、そうだ」
「なに?」
「写真から解析するアプリがあるから、写真ちょうだい?」
「は? 解析!?」
「ほら見てこれ。可愛いんだよ」
昨日解析した結果のひとつ、対象者の人相予測画像を表示した。
アプリの機能で指定できたので、表情は微笑み。
メタリックで整った顔面が正面から端末いっぱいに微笑んでる画像だ。元画像の横顔を適切に解釈して正面顔として出力したものである。こういう事ができるはずと思ってアプリを探したら実際にあったのだ。
アプリの能力としては人間の肌のような質感の画像に加工することもできたのだけど、画像としての容貌が端正すぎて却って作り物のようになってしまうのでメタリックにしておいた。希望であるならガラスとか絨毯とかの質感も選択できたのだけど、実際にやってみると面白くても顔立ちがわかりにくいから保存はしなかった。
「佐々也は、なんでそんなアプリを持ってるんだよ!」
私が手元の可愛い女の子の顔写真を見せると、ゴジがそんな事を言ってきた。




